2-1 ソースターム評価の不確かさ低減に向けて

−プールスクラビングにおけるエアロゾル粒子数濃度に対する除染係数の依存性−

図2-4 実験装置(PONTUS)の概略図

図2-4 実験装置(PONTUS)の概略図

室温の水を張った内径0.2 mの円筒試験部に下部から同程度の温度のエアロゾルを吹き込み、試験部入口と出口で計測したエアロゾル粒子の質量比(若しくは個数比)からDFを評価します。

 

図2-5 各水深におけるDFと濃度の関係

図2-5 各水深におけるDFと濃度の関係

計測原理の異なる二つの手法を用いることで、高い信頼性を有する結果を得ました。水深の増加に伴いDFの粒子数濃度に対する依存性が顕著に現れます。

 

図2-6 空の試験部におけるDFと濃度の関係

図2-6 空の試験部におけるDFと濃度の関係

水を張らない空の試験部では粒子数濃度によらずDFはほぼ一定値を示し、その値は理想的な1に近く、装置設計の妥当性が確認できました。

 


原子炉の重大事故時に放射性物質の環境への放出量を低減する対策の一つとしてプールスクラビング(以下、スクラビング)が挙げられます。スクラビングは除染係数(DF)が比較的高く、ソースターム(事故時の汚染物質の発生率)に与える影響が大きいことから、現在でも原子力安全上重要な課題として広く研究されています。原子力機構においても、DF評価の不確かさ低減に向けて、そのメカニズムの中心となるエアロゾルと二相流の相互作用解明のための実験的研究を実施しているところです。私たちの実験では、従来研究で課題とされているエアロゾル計測の不確かさ低減や信頼性向上を重要視しています。一連の実験で、粒子同士の衝突や凝集が顕著でないエアロゾルの粒子数濃度(以下、濃度)において、濃度減少に伴いDFが急激に増加する実験結果が得られました。この現象はスクラビングの物理的機構を解明する上で重要であるものの、過去においてほとんど検討された例が無く、私たちの実験でその特性を詳細に調査しました。

図2-4に本実験で使用した実験装置(PONTUS)の概略図を示します。エアロゾルとして搬送ガスに空気と0.5 μmのSiO2単分散粒子を用い、注入ガス流量やプール水深等の熱水力条件を固定し、粒子数濃度のみを変化させて各濃度のDFを計測しました(図2-5)。水深2.4 mの実験では、計測の信頼性向上のために計測原理が異なるエアロゾルスペクトロメーターとフィルターを用いた計測を行い、比較しています。両計測によるDFの評価結果は整合し、データの信頼性が示され、粒子数濃度の減少に伴ってDFが顕著に増加する明白なDFの粒子数濃度依存性が確認できます。取得した実験結果が装置依存ではない一般性を有することを確認する一環として、プール水が無い空の試験部におけるDFも計測しました。図2-6に示すように、空試験部におけるDFは濃度に関係なく一定で、その値も理想的な1に近いものとなり、適切に装置設計がなされていることが確認できました。図2-5には、水深を0.8 mと1.6 mとした際の結果も示しました。水深の増加に伴って濃度に対するDFの依存性がより顕著になることが確認でき、この結果から、本DF依存性が吹込口より下流の気泡上昇領域での粒子除去機構と関連することが推測されます。

以上より、特に高水深・低粒子数濃度条件においてDFに対する粒子数濃度の影響が大きいことを見いだしました。これらの知見から、本現象に関連するスクラビングモデルの高度化を今後実施する予定です。

本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「原子力施設等防災対策等委託費(軽水炉のシビアアクシデント時格納容器熱流動調査)事業」の成果の一部です。