2-2 冷却材喪失事故時の安全評価の信頼性向上を目指して

−燃料被覆管急冷破断限界の不確かさの定量化−

図2-7 LOCA模擬急冷破断試験の概要

拡大図(210kB)

図2-7 LOCA模擬急冷破断試験の概要

(a)石英反応管の内部に試験燃料棒を装荷し、水蒸気を流した状態で赤外線イメージ炉を用いて加熱しました。(b)図中の温度履歴で試験燃料棒を加熱冷却し、LOCA時に想定される燃料被覆管の挙動を模擬しました。急冷時には、燃料集合体の構成部材による拘束力を模擬した軸方向荷重を試験燃料棒に負荷し、燃料被覆管が破断するか否かを調べました。

 

図2-8 非照射ジルカロイ-4被覆管の不確かさを考慮した急冷破断限界

図2-8 非照射ジルカロイ-4被覆管の不確かさを考慮した急冷破断限界

LOCA模擬急冷破断試験結果(燃料被覆管の破断●、非破断○)を基に急冷破断確率を評価しました。実線、濃い灰色帯及び薄い灰色帯はそれぞれ急冷破断確率5%に関するベイズ予測分布の中央値、50%区間及び95%区間を表します。

 


発電用軽水型原子炉施設が安全に設計されていることを確認するための想定事故の一つとして、一次系配管の破断等により原子炉から冷却材が失われる冷却材喪失事故(LOCA)があります。LOCA時に炉心の冷却が不十分になると燃料の温度が上昇し、燃料被覆管は周囲の水蒸気と反応して酸化します。燃料被覆管は著しく酸化すると脆化することから、LOCA時の酸化の程度によっては、非常用炉心冷却系からの冷却材注入に伴い燃料棒が急冷された際に燃料被覆管が破断し、炉心が冷却可能形状を失う恐れがあります。LOCA 時に炉心の冷却可能形状が維持されるか否かは、現状、燃料被覆管の急冷破断限界に基づいて評価されていますが、この急冷破断限界は保守的な条件で実施した実験結果に基づき決定論的に評価されており、実験と評価に由来する急冷破断限界の不確かさはこれまで定量的に評価されていませんでした。

そこで、実験に基づき得られた燃料被覆管の急冷破断限界の不確かさを、ベイズ統計手法を用いて定量化しました。具体的には、非照射ジルカロイ-4被覆管を対象としたLOCA模擬急冷破断試験(図2-7)を行い、破断発生を1、非破断を0として二値化し、この二値データがベルヌーイ分布に従うと仮定して一般化線形モデルを適用することで、LOCA模擬急冷破断試験時の燃料被覆管酸化量(酸化によって減少した燃料被覆管金属層厚さの初期金属層厚さに対する割合)と同試験前の燃料被覆管内の水素濃度(初期水素濃度)に関する急冷破断確率評価モデルを構築しました。このモデルの回帰係数をベイズ推定により求め、非照射ジルカロイ-4被覆管の急冷破断限界の不確かさを定量化しました(図2-8)。

確率論に基づき不確かさを考慮して急冷破断限界を評価する際には、急冷破断限界に相当する確率値と母集団に対する試験データの代表性を考慮することが重要です。本研究では急冷破断確率評価モデルの精度及び国内外の原子力施設の安全評価における先行例を踏まえ、不確かさを考慮した急冷破断限界を急冷破断確率5%の95%信頼水準で定義し、初期水素濃度800 wppmまでの範囲では、急冷破断限界は不確かさを考慮しても燃料被覆管酸化量で15%より高くなることを明らかにしました。

この研究成果はLOCA時の炉心の冷却可能形状を維持する観点で重要な、燃料被覆管の急冷破断限界が有する安全余裕の定量的な把握を可能とするものです。



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