図2-9 動的な確率論的リスク評価ツールRAPIDのフレームワーク
図2-10 離散的な時間間隔による動的なイベントツリー解析DDET手法を用いた解析結果
原子力発電所などのリスク評価では、一般に、事故進展に応じた安全工学設備の作動順序とその作動の成功/失敗の組合せを表現するイベントツリー及び設備の故障原因等まで論理的に遡って失敗確率を評価するフォールトツリーを用います。このため、あらかじめ想定した条件や簡略化したモデルに基づくリスク評価であり、例えば、故障した機器の修復、機器の能力の劣化、機器状態の変化に伴うプラント内条件の変化やこの状態変化に伴う機器の応答のような現象を直接取り扱うことができませんでした。そこで、事象の進展やそれに伴うプラントの応答、また、プラント内の熱水力条件の変化に伴う機器応答の変化といった、事象進展の時間依存性を考慮したリスク評価を行うため、数値シミュレーションを利用する動的な確率論的リスク評価手法の研究に取り組み、RAPID(Risk Assessment with Plant Interactive Dynamics)という評価ツールの開発を進めています。
図2-9に示すように、現行バージョンのRAPIDでは、(1)ランダムにサンプリングした変数のシミュレーションコードの入力への反映、(2)シミュレーションコードの複数の実行、(3)計算結果の処理及びグラフ化、さらに、必要に応じて(4)代替統計モデルの構築といった先進的統計データ解析を実施します。また、機器の状態とプラント内熱水力条件の関係性を考慮するため、計算途中の熱水力条件を参照して、事故シーケンスの補正を行うことができます。これにより、例えば、冷却材注入ポンプなどの安全設備がプラントの熱水力条件に依存して劣化するような状況も考慮したリスク評価が可能です。
RAPIDでは、解析の効率化を念頭に、事象進展の分岐が起こり得るタイミングを選定してサンプリングを行い、動的にイベントツリーを解くDDET(Discrete Dynamic Event Tree)方法を用いてシミュレーションを行います。これにより、図2-10に示すように、従来のイベントツリー手法において取り扱えなかった時間依存性を考慮することができるようになります。このようなシミュレーションに基づく動的なリスク評価手法の導入により、客観的な事故シーケンスの抽出が可能となり、シミュレーション数を増やすことで網羅性も向上します。本研究より得られる結果は、規制における合理的な意思決定の一助となると考えています。
本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「平成29年度原子力施設等防災対策等委託費(レベル1確率論的リスク評価手法高度化)事業」の成果の一部です。