2-4 原子力災害時の屋内退避による内部被ばく低減効果を評価する

−低減効果に係る因子の実験的調査と屋内外の濃度比に与える影響−

図2-11 実家屋実験の結果

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図2-11 実家屋実験の結果

(a)沈着率と粒径の関係、(b)粒径0.5 μmの浸透率と自然換気率の関係を示しています。

 

図2-12 日本家屋の自然換気率及び粒子状物質の浸透率と沈着率

図2-12 日本家屋の自然換気率及び粒子状物質の浸透率と沈着率

自然換気率と浸透率は、風速、建蔽率などの環境因子によって異なるため、実家屋実験及び文献調査を基に、取り得る範囲を示しています。

 

図2-13 屋内外の空気交換と屋内での沈着を模擬したコンパートメントモデル

図2-13 屋内外の空気交換と屋内での沈着を模擬したコンパートメントモデル

図2-12に示した値を用いて、屋内放射能濃度Ciと屋内外濃度比Rの時間変化を計算します。

 


屋内退避は原子力災害時の住民の被ばくを低減するための防護措置の一つです。避難指示等が国等から出されるまで待機する場合や、避難または一時移転を実施すべきであるが、その実施が困難な場合に行われます。

屋内退避による内部被ばくの低減効果は、時間積分した線量または放射能濃度の屋内外の比で表されます。屋内の放射能濃度は屋内外の空気交換と屋内での放射性物質の挙動によって支配されます。欧米では、これらの支配因子を調査し、屋内退避の低減効果を求めています。しかしながら、これらの支配因子は風速などの環境因子に加えて、気密性能等の家屋の特性にも依存するため、欧米家屋で得られた値を日本家屋にそのまま適用できない可能性があります。そのため日本家屋に対応した屋内退避の低減効果を評価する必要があります。

本研究では、日本家屋における支配因子を文献調査と実家屋実験により求め、さらに低減効果の一つの指標である屋内外の濃度比に環境因子が与える影響について調査しました。実家屋実験では、屋内外の二酸化炭素(CO2)濃度を連続測定することにより、空気交換のしやすさの指標である自然換気率を求めました。さらに屋内外のエアロゾル個数濃度を連続測定することにより、屋内への物質の侵入しやすさの指標である浸透率と屋内の物質の挙動を表す沈着率を求めました(図2-11)。その結果、自然換気率は同じ環境条件であっても建築年によって異なり(図2-12)、1980年以前の家屋では欧米家屋(0.125〜1 h-1)よりも値が大きい傾向であること、0.3〜1 μmの粒子の沈着率はおおむね0.1 h-1の値であること(図2-11(a))、浸透率は自然換気率に依存して0.5〜1 程度の値であること(図2-11(b))が示されました。

屋内外の空気交換と屋内での沈着を模擬したコンパートメントモデル(図2-13)を用いて、図2-12の文献調査と実家屋実験で得られた値を入力値とし、屋内外濃度比を求めました。古い家屋または風速が大きいほど屋内外濃度比が大きくなりました。これは、古い家屋ほどまたは風速が大きいほど自然換気率と浸透率が大きくなることに起因しています。本研究では粒子状物質のみを対象として、プルーム中の濃度は一定の仮定で計算しました。しかし、原子力発電所事故時には、ヨウ素は不活性なガス状と活性なガス状(I2)の形態も存在し、プルーム中の濃度が一定とは限りません。特にI2の屋内への侵入しやすさや屋内での挙動はほとんど把握されていません。今後、I2の沈着率及び浸透率を求め、より現実的なプルーム中濃度条件下での屋内退避による被ばく低減効果をより正確に評価する予定です。

本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「平成29年度原子力施設等防災対策等委託費(防護措置の実効性向上に関する調査研究)事業」の成果の一部です。