図2-17 配管溶接部に存在する亀裂のイメージ
図2-18 ISIが配管の破損確率に及ぼす影響の評価例
原子力発電所の配管では、長期供用に伴う経年劣化により亀裂が発生・進展(図2-17)し、配管の破損をもたらす可能性があります。配管の健全性を確保するため、供用期間中検査(ISI)の一環として、溶接部に対して定期的に非破壊検査が実施されています。ISIで亀裂が検出された場合には、亀裂の進展評価及び配管の破損評価を含めた健全性評価が行われ、健全性が確保されないと判断された場合、補修・取替え等の措置が実施されます。このように、ISIは配管の健全性を確保する上で重要な役割を担っています。
米国等では、安全上重要な配管に検査資源を集中させるリスク情報を活用したISI(RI-ISI)の適用が進められています。RI-ISIでは、複数の溶接部を含む配管系に対する破損確率を数値指標として、例えば検査対象数の割合(全溶接部に占めるISIの対象の溶接部の割合)等が検討されます。このRI-ISIに活用可能な手法の一つとして確率論的破壊力学(PFM)に基づく評価手法が挙げられます。PFM評価手法では、亀裂の存在あるいはその発生を想定し、亀裂の進展速度や配管の破損等に関する影響因子の不確実さを考慮して評価が行われます。モンテカルロ法等により多数の配管を対象に同様の評価が行われ、破損した配管数と全配管数の比から破損確率が算出されます。また、PFM評価手法では、亀裂の大きさや形状等に応じた亀裂の検出確率(POD)を考慮してISIによる亀裂の検出及び補修・取替えを模擬できるため、RI-ISIにおける数値指標である破損確率等を合理的かつ定量的に評価できます。
私たちは、配管を対象としたPFM解析コードPASCAL-SPの開発を進めており、本研究では、国内におけるRI-ISIの適用を念頭に、PASCAL-SPを用いて検査対象数の割合が配管系の破損確率に与える影響に関する検討を試みました。まず、図2-18(a)に、PASCAL-SPを用いて代表的な炭素鋼配管系に存在する単一の溶接部に対するISIの影響を評価した例を示します。製造時に存在する初期亀裂を考慮することで、供用年数の増加に伴い疲労亀裂進展による累積破損確率が増加しますが、ISIを実施することで、破損確率の増加傾向が緩和されることが確認できます。次に、複数の溶接部を含む配管系に対する評価手法を整備し、検査対象数の割合が配管系の破損確率に及ぼす影響を評価しました。PODの評価には、米国で提案された検査精度が「非常に良い」及び「普通」の二つのモデルを用いました。その結果、図2-18(b)のように、検査対象数の割合が高いほど配管系の破損確率が低減されることや、精度が良くPODの高い検査ほど少ない割合で同じ破損確率を実現できることを定量的に示すことができました。
以上のように、PFM評価手法を活用することで、より合理的に検査対象数の割合を設定できるようになること等が期待されることから、今後もRI-ISI等に係る検討を進めていく予定です。
本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「平成28年度原子力施設等防災対策等委託費(高経年化技術評価高度化(原子炉一次系機器の健全性評価手法の高度化))事業」の成果の一部です。