図8-32 遠心抽出器の概略図
図8-33 遠心抽出器内における(a)水相体積分率及び(b)有機相体積分率の経時変化
図8-34 ロータ回転数の変化に伴うU回収効率の変化
原子力発電所より発生する使用済核燃料の再処理工程においては、使用済核燃料を溶解した硝酸溶液(水相)中からウラン(U)やプルトニウム(Pu)を有機溶媒(有機相)中へ回収するために、溶媒抽出装置が使用されます。種々の溶媒抽出装置の中でも、高速回転するロータにより水相と有機相の混合及び相分離を行う遠心抽出器(図8-32)は、高い処理能力や相分離能力等、他の抽出装置にはない優れた特徴を有しています。本抽出器の性能向上を図る上で重要となる装置内部での水相や有機相の流動や分散特性について、装置の運転条件の違いが及ぼす影響やこれによるU等の回収性能の変化を予測するため、数値解析によるシミュレーション手法を構築しました。本手法では、実際の遠心抽出器を基にモデル化したロータ及びハウジング部を対象に、水相及び有機相の流動や分散状態、さらには各相中のU等の金属濃度について、経時変化を追うことが可能です。
図8-33にシミュレーションにより得られた遠心抽出器内における(a)水相及び(b)有機相の流動状態(体積分率)の経時変化を示します。各相の供給及びロータの回転に伴い、抽出器下部において両相の混合が進むとともに、混合された両相がロータ内に流入後、遠心力により比重の重い水相が外側に、比重の軽い有機相が内側にそれぞれ速やかに分離される様子が認められます。
本シミュレーションにより装置の運転条件の違いが、各相の流動及び分散状態に及ぼす影響を評価したところ、ロータ回転数の増加や各相の供給流量の低下により、抽出器下部における液相の存在領域が上下に分断され、混合時間が低下する傾向が示される一方、いずれの条件においても抽出器下部においてはロータ中心部に向かう流れが確認されました。また、抽出器下部の両相の混合部における分散相(水滴)の液滴径は、ロータ回転数の増加及び供給液流量の低下により減少する傾向が認められました。これらの結果は、抽出器の運転時において観察される挙動といずれも一致しており、シミュレーションの有効性を確認しました。
遠心抽出器による硝酸溶液中からのUの回収においては、所定のロータ回転数において高い回収性能が得られることが過去の試験により確認されていますが、本シミュレーションを用いた評価においても同様の傾向が認められました(図8-34)。
今後、構築したシミュレーション手法により、装置構造の違いが及ぼす影響についても評価を進め、遠心抽出器の性能向上を図っていきます。
本研究は、横浜国立大学との共同研究「抽出器内における流動・分散特性に関する研究」(平成25〜29年度)で実施されたものです。