1-17 放射線量とセシウム濃度の減り方の違いから見えること

−1F事故後5年間の空間線量率及び土壌沈着量の経時変化−

図1-33 定点サーベイによる空間線量率と放射性

図1-33 定点サーベイによる空間線量率と放射性セシウム土壌沈着量の経時変化(相対値)

(a)自然放射線の寄与を除いた空間線量率測定結果、(b)未除染地点での134Csと137Csの土壌沈着量測定結果です。

 

図1-34 2011年度以降の定点サーベイによる空間線量率分布マップ(自然放射線の寄与を含む)

拡大図(993kB)

図1-34 2011年度以降の定点サーベイによる空間線量率分布マップ(自然放射線の寄与を含む)

赤、黄、緑色で示す比較的高線量率の地域が徐々に縮小していることが視覚的に確認できました。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故の後、航空機による上空からのモニタリングに加え、地上でのモニタリングに基づく放射線量等分布マップを作成する方針が国から示されました。私たちは大学等と協力して2011年6月に1Fから半径80 km圏内及び福島県内の約2200地点の土壌の上で、サーベイメータによる測定(定点サーベイ)を行い、空間線量率分布マップを完成させました。2012年〜2016年は1Fから80 km圏内を主な対象として測定地点を約6500地点に増やして定点サーベイを継続的に実施しました。定点サーベイによる平均空間線量率は図1-33(a)に示すように年々減少してきており、マップにすることで比較的高線量率の地域が徐々に縮小していることが視覚的に確認できました(図1-34)。さらにセシウム134(134Cs)とセシウム137(137Cs)の両方を考慮した放射性セシウムの放射性崩壊による減衰よりも速く減少していることが確認できました。放射性崩壊に従って減衰すると5年間で2011年6月の値の約37%に減少します。これに対して、未除染地点では約24%に減少していました。また、除染された地点を含む全地点の平均空間線量率は約19%に減少しました。放射性崩壊のみの場合の約1/2に減少したと言えます。除染作業を含む人間活動の影響と考えています。

一方、人為的なかく乱の少ない開かれた場所に沈着した放射性物質の量(土壌沈着量)については、2012年以降は可搬型ゲルマニウム半導体検出器によるin situ測定法を採用し、主に80 km圏内の約380地点において毎年継続的に測定し経年変化を解析しました。図1-33(b)に示すように未除染地点で測定した134Cs及び137Csの平均土壌沈着量は、それぞれの放射能の減衰に沿って減少していました。

このことと未除染地点の空間線量率がセシウムの放射能の減衰以上に低下していることは矛盾しているようですが、以下に示す解析により妥当であることが分かりました。空間線量率の解析結果から放射能の減衰を超える過剰な減少率は0.65(=0.24/0.37)です。一方、セシウムがこの期間にわずかに移動した深さを考慮すると、土壌による放射線の遮へい効果により、空間線量率は約0.7倍に減少するとの解析結果が得られました。つまり、空間線量率が放射性崩壊よりも速く減少している主な原因は、土壌に沈着したセシウムの水平方向への移動ではなく、深さ方向への浸透によりγ線が遮へいされるためと分かりました。

本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託事業「平成28年度東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質の分布データの集約」の成果の一部です。

(三上 智)