1-5 調査画像から炉内構造物の立体モデルの構築を目指す

−廃止措置の遠隔操作支援に向けた映像解析技術の開発−

図1-10 立体モデルの生成プロセス

図1-10 立体モデルの生成プロセス

画像を入力し、前処理(画像処理)、立体復元計算(SfM)、後処理(MVS)のプロセスを経て、立体モデルを生成します。

 

図1-11 復元された立体モデル

図1-11 復元された立体モデル

(a)原画像から復元された立体モデル及び(b)前処理を行った画像から復元された立体モデルです。調査時に得られた画像に前処理を行うことで、立体モデルの生成を精度良く行えることが示されました。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)の廃止措置では、作業者の被ばくなどを低減するため、多くの作業に遠隔機器が活用されています。しかし、遠隔機器の操作は、主に搭載カメラの映像をもとに行うため、周囲状況の把握が難しい場合があります。このような周辺環境の認識不足が原因で、遠隔機器の転倒やケーブルの切断などのトラブルが発生しています。このため、周辺状況を把握することは、遠隔機器による調査や廃炉作業の計画策定において重要な作業となります。そこで本研究では、遠隔機器の操作者支援のために、遠隔機器により撮影された画像を用いた作業環境内の構造物の立体復元手法の開発を行っています。

まず、立体復元手法の廃炉現場の作業環境への適用の可能性を評価するため、1Fの原子炉格納容器(PCV)内に投入された遠隔機器により撮影された画像を用いて分析を行いました。用いた画像は、東京電力のウェブサイト上で公開されているPCV内部調査の動画より抽出しました。分析の結果、得られた画像はコントラストが低く、不鮮明であるため、立体復元計算に必要な画像特徴量が抽出されにくいことが分かりました。画像特徴量とは、構造物のコーナーやエッジなどから抽出された特徴点を表す局所的な情報です。この画像特徴量の抽出が十分に行うことができなければ、従来の立体復元手法では精度よく立体モデルを生成することができません。

そこで、画像の特徴を捉えやすくするため、画像をそのまま使用するのではなく、画像にフィルタ処理(画像処理)を行い、画像特徴量をより抽出しやすくするための改良を行いました。画像処理としてコントラスト調整及び先鋭化処理を行い、そのパラメータを最適化することで画像特徴量の抽出数が改善することを確認しました。このような前処理を行った画像に対し、Structure from Motion(SfM)の技術を適用して立体復元を行うこととしました。SfMでは、各画像から抽出された特徴量に基づいた画像間の対応付けを行い、三角測量の原理に基づいて特徴点の位置を三次元空間上に復元します。しかし、1Fの調査画像で得られる特徴点の密度は低く、対象物の構造を視認することが難しいことが確認できました。そのため、視認性を向上させるために、Multi-View Stereo(MVS)の技術を後処理として応用しました。MVSにより、立体復元計算により得られた三次元点群の高密度化、メッシュの生成、テクスチャの貼付けを行い、最終的に立体モデルを生成しました。ここで開発した立体モデル生成のプロセスを図1-10に示します。

導入したプロセスの効果を確認するために、PCV内部調査の動画から抽出した画像を用いて、検証を行いました。原画像から復元された立体モデルは凹凸が少なく、曲面のように形成されました(図1-11(a))。それに対して、前処理を行った画像から復元された立体モデルは、制御棒駆動機構(CRD)ハウジングの支持金具間の空隙が再現され、より立体的に復元されていることが確認できます(図1-11(b))。この結果から、前述の前処理を適用することで、より精度良く立体モデルの復元が可能となることが示されました。

現在、遠隔機器の操作者へリアルタイムで立体モデルの映像を提示するための技術開発を進めており、1F廃止措置の推進に寄与していきたいと考えています。

(羽成 敏秀)