1-6 重大事故時に構造材に吸着したセシウム特性を探る

−理論計算によるセシウム化合物の熱力学特性の予測と検証−

図1-12 過酷事故時におけるCsの移行挙動

図1-12 過酷事故時におけるCsの移行挙動

事故時のCsの移行挙動で水相への移行の他、構造材への化学吸着による固着が考えられます。

 

図1-13 第一原理計算と格子振動計算による熱力学特性の計算プロセス

図1-13 第一原理計算と格子振動計算による熱力学特性の計算プロセス

 

図1-14 CsFeSiO4の比熱の計算結果

図1-14 CsFeSiOの比熱の計算結果

CsFeSiOの比熱の計算結果で、有限温度の熱力学特性を予想することができ、報告例がないCsFeSiOの熱力学特性を初めて評価できました。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)で発生したような重大事故(SA)では炉心溶融、原子炉容器の破損等の結果、核分裂生成物(FP)が原子炉建屋内や環境中に放出されます。事故時対応や避難計画策定、事故後の廃炉作業工程策定等のため、FPの放出や移行の挙動を把握し公衆及び作業員の被ばく評価を精度良く行う必要があります。FP 放出・移行挙動は、どのような化学反応を生じてどのような性状の化学種となるか等の化学挙動に依存します。セシウム(Cs)は、図1-12のようにSA時に原子炉内の構造材と高温で化学反応を生じ化学吸着により固着し炉内で主要な放射線源となります。Cs化学吸着挙動の解明には化学吸着に際し形成される化学種について検討が必要です。

このような化学種の検討のため、構造材であるステンレス鋼(SS)へのCs化学吸着実験を系統的に実施しました。その結果、化学吸着に際してSS中に含まれる鉄(Fe)やケイ素(Si)と反応して、CsFeSiOやCsFeO、CsSiO等の化合物が形成されることを確認しました。SA時の化学種の予測には、これらの化合物の熱力学データを用いて化学平衡計算を行います。一方、この予測に必要となるCsFeSiOの熱力学データは報告例がありませんでした。

そこで、本研究では、測定データを必要とせず、簡便に熱力学特性を予測できる可能性のある第一原理計算と格子振動計算を組み合わせた手法を試みました。計算手法としては、図1-13のようなプロセスで、第一原理計算により0Kの結晶構造を検討し電子物性を把握して、これに基づき格子振動計算を行い、有限温度の熱力学データを計算しました。その結果を報告例のあるCsSiOやCsSiOの標準生成エンタルピーや標準エントロピー、比熱の温度変化等の熱力学データと比較して、本研究で用いた計算手法の妥当性を検証・確認しました。さらに、この手法をCsFeSiOに適用して、報告例のないCsFeSiOの熱力学データを初めて予測できました。この一例として比熱の計算結果を図1-14に示します。

本研究により、構造材に化学吸着したCsの化学種の計算による予測が可能となりました。今後は、実験結果との比較検討をより詳細に行い、計算手法の高精度化を進めていきます。これにより、より精度の高い1F炉内の被ばく評価の実現に貢献していきます。

(鈴木 知史)



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