図1-15 水素放出収量の試料高さ依存性の測定結果及び評価モデル
ジオポリマーは無機アルミノケイ酸塩の一種で、常温でセラミック質の固体を形成します。近年、ジオポリマーを種々の放射性廃棄物の固型化に用いることが提案されています。ジオポリマーは他の固型化剤と比較して、高温で高アルカリ性、廃棄物との両立性、ケイ酸塩種との沈殿作用などにおいて優れており、対象廃棄物はスラッジ、樹脂、金属、ゼオライト、セシウムやストロンチウム塩、有機廃液に及びます。放射性廃棄物の固型化において、放射線による固化体からの水素ガス放出は安全上の主要な懸念因子です。ジオポリマー材で固型化する場合、材の多孔質構造中に多量の水が存在するため、水の放射線分解による水素発生が特に重要な因子となります。本研究では、ジオポリマー材単独またはゼオライト(模擬廃棄物)を含むジオポリマー固化体を、水飽和度と試料サイズを変えてコバルト60ガンマ線で照射し、容器内に放出された水素ガス濃度を照射後に測定しました。試料が1J の放射線エネルギーを吸収したときに放出された水素分子の mol数を水素放出収量とし、水で飽和した粉体、円筒形 2、4、8 及び40 cm長の試料に対してプロットした結果が図1-15(a)です。試料が大きくなるにつれて水素放出収量は減少しました。円筒形40 cm 長での放出収量は1.9×10-10 mol/J であり、粉体試料の放出収量2.2×10-8 mol/J よりも2桁小さい値です。
測定結果を解釈するため、ジオポリマー中での水素の発生(Production)、再結合(Recombination)及び拡散(Diffusion)挙動を考慮したPRDモデルを作成して評価を試みました。図1-15(b)にモデルのイメージを示します。照射中は、ジオポリマー細孔内にある水の放射線分解により水素ガスが発生しますが、試料表面への拡散経路で他の放射線分解生成物と反応(再結合)して一部が消費されます。発生–再結合–拡散が定常状態に至ると、試料表面の水素濃度が低く、試料深部の水素濃度が高い分布になると考えられます。照射直後の水素収量を評価した結果が図1-15(a)の線ですが、測定値を再現しています。図1-15(a)の線は照射後に試料内の水素が全て拡散放出した場合の評価ですが、照射してから一定時間後の収量測定値を再現しています。
以上のように、ジオポリマー中の拡散係数が既知であれば、モデルは水素放出量を水飽和度の関数として再現でき、試料サイズ40 cmまでの放出量を予測できることが分かりました。
(山岸 功)