図1-16 環境中に放出された主要FPの総量(解析結果)
図1-17 2号機原子炉容器内で観測された圧力上昇とその原因の考察
経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)は東京電力福島第一原子力発電所(1F)の事故に関するベンチマーク解析「BSAF」プロジェクトを2012年から2018年まで2期にわたり実施しました。第1期では地震発生後1週間における事故進展に基づいた原子炉圧力容器(RPV)及び格納容器(CV)内部状況の推定、第2期では地震発生から3週間までを対象にした事故進展、核分裂生成物(FP)のプラント内移行挙動、環境に放出されるFPの化学形や放出量及びそのタイミング(ソースターム)の推定を主たる解析目的としました。本プロジェクトでは、各国の参加機関が共通の境界条件を用いる解析の他に、事故進展やFP移行挙動との関連性が高いと考えられる特徴的な観測データの再現に向けた解析を実施し、各機関の結果を集約することで確からしい事故シナリオの検討を行いました。
原子力機構では、独自のシビアアクシデント総合解析コードTHALES2/KICHEを用いて1〜3号機までの事故進展、FP移行挙動及びソースターム解析を行いました。環境中に放出された希ガス、セシウム及びヨウ素の積算量に関する解析結果を図1-16に示します。例えば1号機では、特定の真空破壊弁が設置されている配管や排気筒下部近傍で高線量率が観測されたことから、この状況は圧力抑制室の圧力を圧力差でドライウェルに逃がす真空破壊弁が完全に閉まらなくなることで、FPを含んだドライウェルの気体の一部がFP除去機能を持つ圧力抑制プールを経由せずに放出されることで生じたと仮定した解析を行いました。2号機に関しては、地震による原子炉停止後から約76時間後に観測されたRPV内の三つの圧力上昇に対応してサイト外の空間線量率が増えたことから、事故進展を探る重要な手掛かりとなり得ると考え、図1-17に示すようにその原因を推察しました。このような1F事故の観測データを参照した長期間の解析を通じ、THALES2/KICHEの解析の安定性や、多様な事故対応のモデル化等に係わる解析技術を向上させることができました。
各機関の解析結果を集約し、例えば1号機については、事故発生初期の外部からの注水が有効でなかったこと、溶融炉心がほぼ格納容器に放出されていることなどが合意されました。一方、RPV内炉心溶融モデルや溶融炉心/コンクリート相互作用モデルの不確かさが大きいこと、また、長期的なFP挙動に関して、一旦構造材表面等に付着・捕捉されたFPの再移行モデルが不十分であることも指摘されました。このような課題に対応しつつ、事故進展理解のさらなる深化を図るため、私たちは、BSAFの後継としての役割を持つOECD/NEAの1Fの原子炉建屋及びCV内情報の分析「ARC-F」プロジェクトに参加するとともに、その運営を担っています。
(玉置 等史)