1-9 渓流魚中のセシウム濃度変化の原因を探る

−森林から渓流魚に至る異なる三つの経路−

図1-18 森林内のCsの動きと渓流魚への移行の概念図及びモデルで考慮した場所

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図1-18 森林内のCsの動きと渓流魚への移行の概念図及びモデルで考慮した場所

森林内では樹木から地面へ、地面では落葉層から土壌層へCsが緩やかに移動しています。Csの河川水を通した渓流魚への移行経路として、河川への直接落葉、落葉層からの側方流入、土壌層からの側方流入の三つの経路が考えられます。モデルでは森林内の各場所(例えば、葉、落葉層、河川など)の間の移動を計算し、Cs濃度の時間変化を求めます。

 

図1-19 シミュレーション結果の実測値との比較

図1-19 シミュレーション結果の実測値との比較

森林内の各場所の(a)137Cs 存在比は、葉や落葉層で時間とともに低下し、土壌層では上昇していることが分かります。渓流魚中の(b)137Cs 濃度は、それらの影響を反映し、葉・落葉層・土壌層からの寄与割合が時間とともに変化しながら低下していると考えられました。

 


福島県で採取される天然淡水魚の放射性セシウム(Cs)濃度は時間とともに着実に低下し、出荷制限等の解除が進んでいます。淡水魚のうち渓流に生息する魚(以下、渓流魚)に取り込まれるCsは森林から供給されると考えられますが(図1-18)、森林全体でのCs量の低下する速さに比べて渓流魚中のCs濃度の方が早く低下することの原因は不明であり、Csが森林のどこから供給されるのかが把握できていませんでした。

そこで本研究では、森林内のどの場所からのCsが渓流魚に移行しているのかを検討するために、東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故後に蓄積された環境モニタリングデータ及び今回新たに開発したシミュレーションモデルを利用し、Csの森林内での動き及び河川への移動、渓流魚への取込みの経路を分析しました(図1-18)。シミュレーションモデルでは、森林内の葉、枝、落葉、土壌や、河川の水、魚など、環境中でCsが存在する場所に着目します。まず、調査研究の結果に基づき、一つの場所(例えば、葉)から別の場所(例えば、落葉層、河川など)へ移動する速さを求めます。環境中の様々な場所から別の場所への移動を、環境全体で一度に計算し、これを繰り返していくことで、時々刻々と変わる環境中の各場所におけるCsの濃度を求めることができます。この分析の結果、渓流魚のCs濃度の低下傾向が、樹木から落葉層、落葉層から有機土壌層へ向かう森林内でのCsの動きと関係することを明らかにしました(図1-19(a)(b))。具体的には、森林から河川そして渓流魚へ移動するCsの経路は、樹木から河川に直接落葉し溶出する経路(経路1)、落葉層から河川へ溶出あるいは流出する経路(経路2)、有機土壌層から表層水・地下水を通って河川へ溶出する経路(経路3)が組み合わさっていることを明らかにしました(図1-19(b))。

森林全体でのCs量の低下する速さに比べて渓流魚中のCs濃度のほうが早く低下する理由として、1F事故からの時間の経過に伴う葉や落葉層に含まれるCs濃度の急速な低下(図1-19(a))により、経路1、2による河川へのCs供給量が低下していることが主な原因と考えられます(図1-19(b))。今後、時間の経過とともに、相対的にCs含有量が多い有機土壌層からの寄与(経路3)が大きくなると考えられます。また、有機土壌層内ではCsは緩やかに深さ方向に移動しながら無機土壌層に吸着されることが想定されます。このため、有機土壌層内でのCsの動きや存在状態を理解することが、渓流魚のCs濃度の将来予測において重要になると考えられます。

本成果による渓流魚中のCs濃度の変動メカニズムの解明は、福島県で採取される天然の淡水魚の出荷制限等解除に役立つものと期待しています。

(操上 広志)