1-10 大型台風がもたらした河口域の沈降粒子量への影響

ー2019年の河口域での放射性セシウムの観測結果からー

図1-26 対象地域、方法及び主要な結果

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図1-26 対象地域、方法及び主要な結果

(a)福島県沿岸域の河川の沖合に4ヶ所の調査地点を設定しました。図中には水深線を記しています。(b)調査地点にはセジメントトラップ(St.1〜St.4)を係留し、沈降粒子を捕集しました。(c)請戸川の137Cs流出量の経時変化(図中の青線)と4地点のセジメントトラップで取得した沈降粒子(図中のポイント)の137Csフラックスを比較しました。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故後、海産物への放射性物質の移行が懸念されることから、海域では放射性セシウム(Cs)の動態研究が行われています。事故から10年経過した現在、1Fからの放射性Csの海洋放出は限定的となり、海洋への供給源としては、陸域から河川を介した輸送が主になると考えられます。そこで、私たちは河川から海洋に供給される放射性Csの実態解明のため、河口域での調査を行ってきました。河川から海洋への放射性Csの移行は、台風などで河川水位が上昇し、流れが速くなる「洪水時」に、特に顕著です。これは、放射性Csが細かな粒子に吸着されやすく、洪水時に粒子とともに河川水に洗い流され、海洋に供給されるためです。本研究では、洪水時における海洋への放射性Csの移行メカニズムを評価するため、2019年の台風(Bualoi)時に、河口沿岸域の4ヶ所にセジメントトラップ(ST)を設置して、海面付近から海底方向に沈降してくる粒子(沈降粒子)を連続的に捕集し、その放射性Cs濃度(137Cs)、沈降粒子量の測定を行いました。

STによる沈降粒子のサンプリングは、台風の接近した2019年10月25〜26日を含む1週間実施しました。図1-26(a)に示すように、調査地点は、1F周辺の浜通りの河川の中で流域面積の大きい請戸川河口域と沖合に2地点(St.1 : 水深10 mとSt.4 : 水深60 m)、請戸川より北側で1地点(St.2 : 水深27 m)、請戸川より南側で1地点(St.3 : 水深30 m)の合計4地点としました。各地点に、図1-26(b)のようにSTを係留し、沈降粒子を日ごとに捕集しました。

沈降粒子量は、台風接近時に、最も多くなることが分かりました。また、地点ごとに比較すると、河口域に近いSt.1で最も多く、岸から14 km離れたSt.4の約100倍でした。また、St.2及びSt.3ではSt.1に比べて少ない沈降粒子量となりました。

137Csフラックス(137Csの移動量を表す指標で沈降粒子量に137Cs濃度を掛けたもの)は、台風接近時に大きく上昇しました。特にSt.1では、台風前後より2桁ほど高い数値を示しました。これは、請戸川の観測点(河口から約3.5 km上流)で、原子力機構が連続観測している水位(流量の指標)と濁度(河川水中137Cs濃度の指標)から推定された請戸川の137Cs流出量(流量×河川水中の137Cs濃度)の経時変化と同様の傾向を示しました(図1-26(c))。また、沈降粒子の137Csフラックスの上昇期間は、台風接近前後の2日程度と短く、その後は台風前と同様のレベルに戻りました。

本研究により、台風時における河川から海洋への流出量は請戸川河口域では顕著だったものの、おおむね沿岸14; km以内に影響は留まり、期間も台風接近の一時期に過ぎないことが分かりました。

本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「平成31年度放射性物質測定調査委託費(福島県近沿岸海域等における放射性物質等の状況調査)事業」の成果の一部です。

(御園生 敏治)