1-9 光ファイバを用いて高放射線環境で放射線強度分布を測る

ー光の波長成分に着目した放射線位置検出に関する新しいアプローチー

図1-22 波長分解分析法の概念図

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図1-22 波長分解分析法の概念図

光ファイバの発光をファイバの片側で分光し、光ファイバ内での光減衰量が波長(光の色)によって異なることを利用して放射線強度分布を逆推定します。

 

図1-23 波長スペクトルの光ファイバ内での減衰

図1-23 波長スペクトルの光ファイバ内での減衰

光の波長ごとに光ファイバ内での減衰量が異なることで、光伝播距離の違いによりスペクトル形状が変化することが分かります。

 

図1-24 <sup>90</sup>Sr/<sup>90</sup>Y線源を用いたベータ線入射位置測定結果

図1-24 90Sr/90Y線源を用いたベータ線入射位置測定結果

線源強度1 MBqの90Sr/90Y由来のベータ線入射位置が推定できています。

 

図1-25 <sup>60</sup>Co線源を用いたガンマ線入射位置測定結果

図1-25 60Co線源を用いたガンマ線入射位置測定結果

3 Gy/hの高線量率でガンマ線入射位置が推定できています。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)廃炉作業現場では、作業者の被ばく線量管理や効率的な除染を行うため、放射性物質の分布を詳細に測る必要があります。放射性物質の面的分布を測る手法の一つに、放射線に有感な光ファイバ(以下、ファイバ)を用いる手法があります。その中でもファイバ両端に到達する光の時間差からファイバへの放射線入射位置を決定する飛行時間法が1F敷地内で使われた実績があります。一方で、飛行時間法は1F原子炉建屋内のような高線量率の環境では信号の分離が厳しくなるため適用が難しく、またファイバの両端に光センサを配置する必要があるため、高線量率の環境への適用が難しいという課題がありました。そこで、私たちは高線量率の環境へ適用可能であり、さらにファイバの片側のみからの光読出しにより放射性物質の分布が測定可能な手法である「波長分解分析法」を、名古屋大学と共同で開発しました。

図1-22に開発した手法の概要を示します。この手法ではまず、ファイバと放射線が反応することに由来する発光を、ファイバの片側に設置した分光器で分光し、波長スペクトル(光の色ごとの相対強度)を取得します。一方、光はファイバ内を伝わる際に吸収・散乱を起こすため徐々に減衰していきます。ここで、その減衰の大きさは光の色ごとに異なり、光伝播距離の違いによりスペクトル形状が変化します(図1-23)。したがって、ファイバ発光位置ごとに分光器で測定される波長スペクトルをあらかじめ測定しておくことで、波長スペクトルから放射線強度分布を逆推定することが可能です。この新しい手法によりファイバの片側からの光読出しによりファイバに沿って放射線強度分布が推定可能となったことに加え、光量の積分値を測定することから信号の数え落としが発生しないため高線量率での測定が可能となりました。本手法による放射線強度分布測定試験結果を図1-24、図1-25に示します。ここでは、線源強度1 MBq の90Sr/90Y由来のベータ線入射位置測定(図1-24)と、3 Gy/hという飛行時間法が適用困難な高線量率での60Coガンマ線入射位置測定(図1-25)について示しています。いずれの結果も実際の放射線入射位置を正しく推定できており、本手法が1F廃炉作業環境におけるベータ線源位置検知及び高線量率環境でのガンマ線分布検知に応用可能であることが確認されました。

本研究は、原子力機構「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」(JPJA19B19206529)の「一次元光ファイバ放射線センサを用いた原子炉建屋内放射線源分布計測」の成果の一部です。

(寺阪 祐太)