1-15 わずかな量の骨の90Srをすばやく分析

ー生体内硬組織試料中90SrのICP-MS測定に向けたSrレジンの適用性ー

図1-33 骨や歯の<sup>90</sup>Sr測定における新規ICP-MS法と従来の放射能測定法の分析手法の比較

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図1-33 骨や歯の90Sr測定における新規ICP-MS法と従来の放射能測定法の分析手法の比較

私たちは樹脂カラムでの化学分離を繰り返すことで、骨中の多量のCaをほぼ全て除去する化学分離法を開発しました。この手法を既に開発されたICP-MS法と組み合わせることで測定妨害元素を除去し、従来の放射能測定法より迅速に骨や歯の90Srを分析できました。

 

表1-1 ICP-MS法と放射能測定法による0.1 gのウシの骨や歯の90Srの分析結果

新規ICP-MS法と放射能測定法の測定結果を比較することで、ICP-MS法が骨や歯の90Srを正確に分析でき、小さな骨や歯の90Srを低い検出下限値で分析できることが分かりました。

表1-1 ICP-MS法と放射能測定法による0.1 gのウシの骨や歯の<sup>90</sup>Srの分析結果

拡大図 (61kB)

 


ストロンチウム90(90Sr)は、半減期28.8年の原子炉内で生成しやすい核分裂生成核種であり、生体内で骨や歯に取込まれやすいことが知られています。90Srは組織の形成時期に骨や歯に取り込まれるため、骨や歯の中の90Srはその形成時期における動物への放射性核種の取込み量や生息環境の90Sr分布の指標になると考えられます。しかし、採取できる骨や歯の中には魚の耳石やヒトの乳歯のように、試料量が1 gに満たないものもあり、1〜10 gの骨や歯の90Sr分析に最適な従来の放射能測定法は、適用が難しいと考えられました。

少量試料の分析に有利な誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)法は、これまでに土壌や植物試料に含まれる90Srの分析に適用され、放射能測定法と同程度の検出感度で分析できることが報告されています。しかし既存のICP-MS法は土壌や植物などカルシウム(Ca)の少ない試料を対象としているため、骨や歯に含まれる多量のCaにより測定が妨害される可能性がありました。本研究では、Srのみを選択的に抽出する樹脂カラムを用いて、ICP-MS法による90Sr測定時の骨に含まれる妨害元素の除去手法を検討しました。

0.1 gの骨と歯を酸に溶かした後、Srを選択的に吸着する物質(クラウンエーテル)を含む樹脂カラムを通過させ妨害元素を除去しました。この樹脂カラムを通した溶液を、90Sr分析用に高感度な測定条件に設定したICP-MS法で測定しました。0.1 gの骨や歯にもともと含まれる約11 µgの 88Sr(安定同位体)が化学分離前後でどれだけ減少したかをICP-MS法により測定し、Srの回収率としました。

私たちは樹脂カラムでの分離操作を2回繰り返す手法を開発し、骨に含まれる多量のCaのほぼ全て(99.999%)を除去しながら、80%以上のSrを回収できるようにしました。既に開発されたICP-MS法は、90Srとほぼ同じ原子質量を持ち極微量でも測定に干渉するジルコニウム(Zr)を、酸素ガスと反応させて、ICP-MS測定に干渉しない質量数(90Zrと16Oの和である106)に変化させることにより、除去します。私たちの開発した化学分離技術とこのICP-MS法を組み合わせることで、従来の放射能測定法(20日間)に比べ短い11時間で骨や歯に含まれる90Srを測定することができました(図1-33)。本法と従来の放射能測定法で90Srが高濃度に含まれるウシの骨や歯を分析したところ両手法の測定値が一致し、ICP-MS法で骨や歯の中の90Srを測定できたことが分かりました(表1-1)。また、ICP-MS法の検出下限値は放射能測定法よりも低く(表1-1)、小さな骨や歯の90Sr分析に適していることを示すことができました。今回開発した分析法を用いて、動物の生息環境の追跡調査を今後展開していく予定です。

本研究は東北大学との共同研究「環境中移行に関わる被災動物の歯に記録されたストロンチウムの取り込み履歴の解明について」の成果の一部です。

(小荒井 一真)




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