4-2 機械学習を用いた核反応データ評価手法を提案

ー高品質な高エネルギー核反応データベースの開発に貢献ー

図4-4 理論モデルによる<sup>nat</sup>Si(p,X)<sup>22</sup>Na反応断面積の解析値と提案手法による評価値の比較

拡大図 (138kB)

図4-4 理論モデルによるnatSi(p,X)22Na反応断面積の解析値と提案手法による評価値の比較

最新の理論モデルでも、高エネルギーの核反応断面積の実験値を予測することは困難です。

 

図4-5 提案手法により得られる<sup>nat</sup>Si(p,X)<sup>22</sup>Na反応断面積評価値の不確かさ情報((a)1標準偏差、(b)相関係数行列)

拡大図 (334kB)

図4-5 提案手法により得られるnatSi(p,X)22Na反応断面積評価値の不確かさ情報((a)1標準偏差、(b)相関係数行列)

標準偏差により、それぞれのエネルギー点における断面積評価値の不確かさが分かるだけでなく、相関係数により、エネルギー間の断面積の関係の強弱も把握することができます。

 


核反応断面積などの原子核固有の物理量を表す核データは、原子力の研究開発をはじめ、放射線を利用した医療分野や放射線環境下における被ばく線量評価・半導体装置の開発で欠かすことのできない知の基盤データです。これらの核データは、これまで世界各地の研究機関で取得された膨大な実験データをもとに核反応理論モデルや経験式を駆使して評価され、評価済み核データライブラリと呼ばれる核反応データベースとして整備されています。先人の英知と多大な努力により、核データの品質は向上してきましたが、それでもなお、理論モデルや経験式では説明できない物理量に対しては、評価値と実験結果との間に乖離が存在し、これを解決する新たな評価手法の確立が期待されてきました。

近年、ニューラルネットワークや深層学習をはじめとする種々の機械学習技術が注目され、様々な研究分野で応用されています。私たちは、これらの機械学習のテクニックの中で、ガウス過程回帰と呼ばれる手法に着目し、これを応用して核データを評価する手法を提案しました。

ガウス過程回帰はベイズ統計に基づく機械学習法の一つで、提案手法は、実験誤差情報を含んだ実験データを学習することで、任意のエネルギー点における断面積などの物理量を、不確かさを含めて評価することができます。図4-4は、半導体素子の材料として使われるケイ素原子核(natSi)と高エネルギー陽子との核反応(natSi(p,X)22Na反応)で生成されるナトリウム22(22Na)の核種生成断面積に対する、提案手法による評価値と最新の理論モデルによる解析値との比較を示したものです。10 MeVを超える高エネルギー核反応では、最新の理論モデルでも断面積を精度良く予測することは困難でしたが、提案手法では、断面積を実験データから帰納的に推定するため、実験値との大幅な乖離を生じることなく断面積を評価することができます。

図4-5は、提案手法によって得られたnatSi(p,X)22Na反応断面積の不確かさの情報を示したものです。この図のように、従来手法では評価することができなかった高エネルギー核反応に対する断面積評価値の不確かさの情報を視覚的にとらえることが可能になりました。この特長を利用して、核データの精度向上の観点から効果的な実験を議論することができるとともに、核データを利用した研究開発分野で、被ばく線量や放射線損傷量などの評価値に対する核データに起因する不確かさを推定することも可能です。

提案した手法を、理論モデルによる予測が困難な高エネルギー核反応に対する核データ評価に用いることで、従来手法では実現できなかった高精度の評価値とその不確かさ情報を併せ持つ高品質な高エネルギー核反応データベースの開発に貢献することが期待されます。

(岩元 大樹)




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