4-5 放射性物質の様々な条件の大気拡散計算を高速化

ー大気拡散データベースシステムWSPEEDI-DBを開発ー

図4-11 新規開発の計算手法(下段)と従来手法(上段)の比較

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図4-11 新規開発の計算手法(下段)と従来手法(上段)の比較

従来手法では放出条件ごとに必要であった拡散計算の実行を、新規手法では不要としました。試験計算では、1ケース約7分必要であった放出から1日後までの計算が、新規手法では3、4秒で終了するなど、100分の1以下の時間で計算結果を得ることができました。

 

図4-12 WSPEEDI-DBシステムの構成と計算の流れ

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図4-12 WSPEEDI-DBシステムの構成と計算の流れ

システムの計算機能により大気拡散計算出力のデータベースを作成し、解析機能によりこのデータベースに対して放出条件を適用して計算結果を作成します。計算結果は様々な図形を作成して可視化します。これらの機能はWebブラウザを用いて簡便に操作できます。

 


中央防災会議の防災基本計画では、国は、地域防災計画・避難計画の具体化・充実化に当たって地方公共団体が大気拡散計算を活用する場合には、専門的・技術的観点から支援を行うものとされています。これに貢献するには、これまで原子力事故時の放出源情報の推定や大気拡散過程の解析等に用いてきた、世界版緊急時環境線量情報予測システムWSPEEDIによる詳細な大気拡散計算結果を効率的に提供する必要があります。しかし、WSPEEDIの高度な数値モデルは計算時間を要するため、気象条件を含む様々な条件の計算結果を比較検討するような利用は困難でした。

そこで、WSPEEDIによる様々な条件の計算結果を即座に作成できる新たな計算手法(図4-11)を開発しました。この手法では、原子力施設など放出地点が定まっている場合、放出期間、放出核種、放出率を特定しない計算結果のデータベースを事前に作成しておくことにより、放出源情報を設定するだけでその条件に基づく予測結果を即座に得ることができます。具体的には、放出期間を一定間隔で分割した各期間について単位放出条件(1 Bq/時)の大気拡散を計算し、全放出期間ケースの結果を保存します。放射性核種は、拡散挙動が類似する5グループに分け、その代表5核種についてのみ放射性壊変がない条件で計算して、後から核種ごとの壊変率を適用することで任意の核種に対応できます。この計算を、毎日の気象データ更新に合わせて定常的に実行して過去から数日先までの連続的なデータベースを整備しておきます。これに分割期間ごとの放出条件を適用した計算結果を全放出期間で合算することで、任意の放出条件に対する計算結果を作成できます。さらに、各種機能を簡便に操作できるインターフェイスを整備し、大気拡散データベースシステムWSPEEDI-DB(図4-12)を開発しました。このWSPEEDI-DBにより作成できる過去の気象条件に対する様々な仮想放出条件の計算結果は、モニタリング計画の最適化や、模擬モニタリングデータ作成及び緊急時対策で想定すべき事象の把握等の防災訓練への活用が考えられます。その一例として、島根原子力発電所周辺の1年間の計算結果を用いてモニタリングポスト配置の有効性を評価したところ、現状の配置は、非降水時は空間線量率の空間分布把握に有効だが、降水時はモニタリングポストで把握できない高線量地域が想定され、その把握には機動的測定が有効であることを提示できました。

本研究は、島根県原子力環境センターとの共同研究「緊急時モニタリングにおける大気拡散シミュレーションの活用に関する研究」(平成28〜令和元年度)で実施された内容を含んでいます。

(寺田 宏明)