4-6 高強度アルミニウム合金の自発的破壊現象の解明

ー水素でアルミニウムがもろくなる原因の解明と、計算科学による高強度合金設計ー

図4-13 水素の欠陥への分配と自発的剥離現象の計算

拡大図 (193kB)

図4-13 水素の欠陥への分配と自発的剥離現象の計算

高強度アルミニウム合金は擬へき開破壊と呼ばれる破壊形態を持つことが知られています。(a)シンクロトロンX線トモグラフィーによる破壊形態の三次元イメージと(b)低加速走査型電子顕微鏡による破壊した面の観察によって、擬へき開破壊を生じる破面には無数のナノスケールの微細粒子が存在しアルミニウムと微細粒子の界面で剥離が生じていることが分かります。

 

図4-14 実験による破壊現象の観察

拡大図 (94kB)

図4-14 実験による破壊現象の観察

(a)アルミニウム合金中の欠陥構造、(b)それぞれの欠陥構造ごとの水素分配、(c)水素集積による結合エネルギーと界面凝集エネルギーの変化を示します。水素は欠陥の中でも微細粒子との界面によく集まることが分かります。さらに、たくさんの水素が飽和することなく集まり、一定の濃度を超えると界面の結合力がゼロより小さくなり、自発的剥離を生じることが分かります。

 


アルミニウム合金は、航空宇宙分野や、鉄道車両、スポーツ用品などに広く使われてはいるものの、水素脆化と呼ばれる水素が関係する破壊現象のため、さらなる高性能化が阻まれていました。近年、軽量かつ高強度な炭素繊維複合材料(CFRP)が航空機などの新たな構造部材として使われるようになっていますが、製造・加工・修理のコストと信頼性の観点から金属材料のニーズは高く、軽量で高強度なアルミニウム合金の開発が期待されてきました。

高強度アルミニウム合金は、材料中の水素によって割れを誘発する構造材料に好ましくない特性を持っています。そこで、水素によって誘発される破壊挙動の特徴を捉えることを目的に、高分解能電子顕微鏡や大型シンクロトロン放射光施設を用いて、アルミニウム破壊挙動の4D観察を行ってきました。これらのナノスケールの実験観察から材料中の原子レベルの欠陥構造の挙動を予測することで、これらの欠陥構造に水素を含む状態を、原子モデルを用いて再現する枠組みを開発し、電子状態計算によって欠陥構造と水素の関係、さらには破壊に至るプロセスを明らかにすることを目的として研究を進めてきました。

図4-13(a)は、シンクロトロンX線トモグラフィーによって得られた高強度アルミニウム合金の破壊後の破面を見た三次元イメージです。この破面は擬へき開破面と呼ばれ、金属材料でよく観察される破壊形態とは異なり、水素が存在することによって形態が変化して割れやすくなることを示しています。同じ試料の破面を、低加速走査型電子顕微鏡を用いてさらにミクロスケールで見たものが図4-13(b)になります。破面には高強度化のために析出させたナノスケールのMgZn2微細粒子が存在し、アルミニウムと微細粒子の界面で剥離が生じていることが明らかになりました。

次に、水素が偏析する傾向を調べるために、原子モデルに基づく電子状態計算によって、実際に材料中に存在する全ての欠陥構造に対して水素が集まる可能性を検討しました。図4-14(a)と(b)には、合金中に存在する欠陥構造の模式図と計算によって評価された合金中の水素分配を示しています。材料中には、一般に、空孔、転位、粒界などの欠陥が存在し、加えて、対象とする高強度アルミニウム合金では微細粒子が存在していますが、今回の計算からこれまで水素が集まらないといわれていた微細粒子との界面によく集まることを明らかにしました。図4-14(c)には多数の水素が集積した際の界面における結合エネルギーと界面凝集エネルギーの変化を示しています。(結合エネルギーは高いほど水素が界面に集まりやすいことを示しており、凝集エネルギーは界面における接着力を示す破壊現象に関連した指標です。)その結果、界面には多数の水素が集まりやすく、水素分子が形成されながら集積し続けることが分かりました。さらに、多数の水素の集積によって界面の凝集エネルギーは低下していき一定の量に達した時点でゼロになります。

このように、水素は界面で飽和することなく安定的に集積し、その結果、界面の接着力が喪失することによって自発的剥離を生じていることが分かりました。微細粒子はアルミニウム合金の高強度化には不可欠ですが、解析によって水素を集めやすく、割れを促進することが明らかになりました。計算機による合金設計では、効率的な合金開発への応用が可能であることから、我が国の製造業の発展に貢献することが期待されます。

本研究は、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST、JPMJCR1995)及び産学共創基礎基盤研究プログラム(Project 20100114)の支援を受けたものです。

(都留 智仁)




| | | | |