1-15 無人ヘリによるホットスポット可視化の信頼性向上を目指して

−飛行条件を考慮したデータ選択によって検出精度を改善−

図1-29 測定システムへの追加機能:姿勢角センサー

図1-29 測定システムへの追加機能:姿勢角センサー

測定システムに装備した無人ヘリの姿勢角(a)を記録する姿勢角センサー(b)及びRoll角の経時変化(c)を示します。測定時間内に角度が変化することで、手振れ写真のように画像が劣化しました。解析手法の改善1(安定した時間帯の選択)、改善2(姿勢角の制限)に使用した範囲も示しました。

 

図1-30 飛行条件を考慮したデータ選択による周辺線量当量率マップの改善例

拡大図(213kB)

図1-30 飛行条件を考慮したデータ選択による周辺線量当量率マップの改善例

(a)改善1:位置・姿勢の安定した時間帯を選択した場合の周辺線量当量率マップの変化、(b)改善2:姿勢角を制限した場合の地上測定値との相関の変化を示します。これらの改善により、ホットスポット(破線楕円内)の検出精度が向上しました。

 


東京電力福島第一原子力発電所事故により広範囲に放出された放射性セシウム等による汚染状況の的確な把握や除染作業の効率化のためには、上空から広範囲を迅速に移動測定できる無人ヘリコプター(無人ヘリ)の活用が期待されます。汚染分布を撮影できるコンプトンカメラが地上で用いられていましたが、私たちは無人ヘリ搭載コンプトンカメラシステムを開発して福島県の高線量率地域において測定試験を行ってきました。ただ放射線の入射する角度が重要となるコンプトンカメラの測定では、上空の風の強い状況下での姿勢の不安定さのため測定精度が低下するという課題がありました。そこで、本研究では風に流されてもすぐに戻るという自律航行型無人ヘリの特性に注目し、小型カメラ、レーザー距離計、姿勢角センサー(図1-29(b))、温度センサー、及び計数率と飛行位置をリアルタイム表示するソフトウェアをコンプトンカメラシステムに追加装備し、姿勢角や位置等の飛行条件をより適切に記録することにより、ホットスポット検出等の測定精度の改善を試みました。

福島県大熊町の野外で無人ヘリR-MAX G-Iにそのコンプトンカメラシステムを搭載して測定を行いました。地上値測定で事前に判明したホットスポット付近の上空約20 mの定位置からガンマ線源画像撮影を行うホバリングフライトによる測定(約15分間)を行いました。

その結果から、地上1 m高さの周辺線量当量率マップを得て、地上でサーベイメータを用いて歩行測定した値と比較しました。15分間のフライト中、姿勢角は時々大きく乱れていました(図1-29(c))。そこで、より精度良く線源位置を特定するために、次の二つの改善を各々実施しました。改善1では15分間の全測定データを使った時に比べて、比較的姿勢が安定していた約1分間(図1-29(c)、870~934秒)のデータを用いると、エリア右上のホットスポットを確認しやすくなりました(図1-30(a))。また、改善2では姿勢が不安定な時間帯(図1-29(c)、224~546秒)でも、姿勢角が所定の範囲内に入っているときのデータのみを使うと、改善1と同様にホットスポットを確認しやすくなりました。測定結果と地上測定値との相関を表す指標としての残差平方和(RSS)は、低線量率から高線量率までの全線量率範囲で分布が回帰直線に近い(相関が良い)ほど値が小さいですが、改善2により1.15から0.42へ減少(図1-30(b))したことは、測定結果と地上測定値との相関の改善を示しています。線量換算時の直線性が良いと、地上測定値の再現性が良くなります。高線量率域までの再現性がホットスポット検出に重要で、検出精度の向上を示しています。

このように、飛行条件を考慮したデータ選択を解析に取り入れることで、ホットスポットの検出精度や周辺線量当量率分布の測定精度が改善されることが分かりました。これらの成果は今後の上空からのホットスポット検出や汚染分布測定において活用が期待されます。

(志風 義明)