図1-4 希ガスモニタリングによる臨界性評価の概念
図1-5 希ガス放射能比と中性子増倍率の相関
東京電力福島第一原子力発電所の燃料デブリを取り出して安全に管理するためには、燃料デブリの臨界性や核物質量を把握しておくことが重要です。燃料デブリ内では自発核分裂(SF)反応と中性子誘起核分裂(IF)反応により、半減期の短い核分裂生成物(FP)が生成されていると考えられます。代表的なFPとしてクリプトン88(88Kr)やキセノン135(135Xe)などが知られていますが、これらはSF反応とIF反応ではFP生成量が異なります。
この特性を利用して、図1-4に示すように原子炉格納容器(PCV)内や燃料デブリ収納容器内の物質組成が不明確な燃料デブリの臨界性(中性子増倍率や核燃料物質量)を推定する方法を開発しています。まず、PCVや燃料デブリ収納容器からガスを採取し、88Krと135Xeの放射能比をバックグラウンド放射能が低い場所で遠隔モニタリングします。次に、88Kr/135Xe放射能比と中性子増倍率との相関をあらかじめ計算等で予測しておくことで、組成が不明な燃料デブリに対して、その体系での臨界性を予測します。
この方法を確立するためには、未臨界体系におけるFP生成量と中性子増倍率との相関をあらかじめ正確に評価することが必要です。今回、私たちはSF反応とIF反応を考慮してFP生成量と中性子増倍率の相関を評価することができるモンテカルロ法に基づく未臨界燃焼計算コードを世界で初めて開発しました。本計算コードの開発はSF反応とIF反応を考慮するために必要な理論、アルゴリズム、データを、マサチューセッツ工科大学が公開しているOpenMCコードに組み込むことにより行いました。
図1-5には、開発した計算コードを燃料デブリ収納容器に適用した結果を示します。計算では、実際には測定が困難な燃料デブリ中のウラン235(235U)量や含水率をパラメータとして変化させ、88Kr/135Xe放射能比と中性子増倍率との相関を3次元モンテカルロシミュレーションにより計算しました。その結果、パラメータに依らず中性子増倍率は直線的に変化し、測定される88Kr/135Xe放射能比から臨界性を評価できる可能性が示されました。
開発した計算コードは、今後のPCV内の臨界監視システムの設計や燃料デブリの非破壊測定技術の開発などに活用されることが期待されます。
(Eka Sapta Riyana)