1-3 原子炉圧力容器下部の破損メカニズムを明らかにする

−BWRの複雑な下部構造における材料間反応を想定した溶融試験−

図1-6 圧力容器(RPV)下部の破損メカニズム

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図1-6 圧力容器(RPV)下部の破損メカニズム

RPV破損要因として、主に熱的損傷、力学的損傷、材料間反応による損傷が想定されています。材料間反応による損傷を検証するために、東京電力福島第一原子力発電所(1F)2号機の事故進展の条件を想定したELSA-1試験を実施しました。その結果から、1F2号機の制御棒駆動機構(CRD)ハウジング内には溶融金属が残存している可能性を推定しました。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)の廃炉作業では、高線量下にある原子炉圧力容器(RPV)内や格納容器(PCV)内の状況把握が喫緊の課題です。そのため、内部調査、事故進展解析、模擬試験等により、損傷した炉内状況の推定が行われていますが、RPV下部の破損メカニズムの解明には至っていません。その理由は、内部調査が困難なことに加え、これまでのシビアアクシデント(SA)解析や模擬試験の多くが、加圧水型軽水炉(PWR)体系を対象としているためです。また、1Fと同じ沸騰水型軽水炉(BWR)のRPV下部は、制御棒駆動機構(CRD)が存在するなど、PWR体系よりも複雑で、破損メカニズムの知見も少ないことが挙げられます。

私たちは、東京電力ホールディングス株式会社と共同で、BWR特有の複雑な下部構造について、構造や材料構成を考慮しつつ、RPV下部の破損メカニズム(図1-6)を検討しました。事故時の炉心エネルギーの推移を評価した結果、1F2号機では炉心物質落下までのエネルギー増加が少なく、炉心燃料が完全に溶融する温度に至っていません。そのため、下部プレナムに移動した炉心燃料の多くは未溶融の状態であったと推定されます。つまり、RPV下部では燃料被覆管、制御棒、チャンネルボックス等の金属物質が溶融し、溶融プールが形成したと考えられます。

また、このような状況では、材料間反応(共晶溶融:材料本来の融点よりも低い温度で液化が起こる現象)によりRPVが破損する可能性があります。そこで本研究では、共晶溶融によるRPV下部構造の破損を検証する模擬試験(ELSA: Experiment on Late In-vessel Severe Accident phenomena)を実施しました。

この試験では、事故の初期段階で炉心燃料がRPV下部に移行したと仮定して、RPV下部を模擬した試験体に溶融金属を装荷し、黒鉛ヒーターで全体を加熱しました。試験体は、溶融金属プールの組成と共晶反応が想定されるニッケル合金を多く含むCRDの貫通部を模擬しました。また、試験時の昇温条件は、1F2号機の事故進展解析の結果から設定しました。

試験結果より、溶融プールの状態によっては、RPV下部は熱的破損やクリープ破損が生じない条件下においても、共晶溶融によって破損する可能性があることを検証しました。また、試験結果では、1F2号機のCRDハウジング内に溶融金属が残存する可能性が示唆されました。

今後は、他の要因が重畳する条件下でのRPV下部破損のシナリオについても検討を行い、1Fの原子炉内の状態把握を進めることで、燃料デブリ取出しに役立てたいと考えています。また、SA解析コードの高度化にも役立つ知見の集約を目指します。

(山下 拓哉)