1-7 廃炉作業環境中の放射性物質を「その場」で測定!

−空気中のα粒子のリアルタイム監視で燃料デブリ取出し作業の安全性向上へ−

図1-15 In-situ Alpha Air Monitor(IAAM)によるαエアロゾル測定のイメージ

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図1-15 In-situ Alpha Air Monitor(IAAM)によるαエアロゾル測定のイメージ

(a)1F-PCV内の高湿度、高線量環境で発生する高濃度のαエアロゾルの「その場」測定を目指し、(b)ヒーターでの空気乾燥、扁平型流路とα線検出器の垂直配置、薄膜シンチレータと多チャンネル光電子増倍管等を組み合わせたIAAMを設計しました。(c)に試作したα線検出部を示します。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)の廃炉作業においては、損傷した炉心からの燃料デブリの取出しが今後本格化し、機械やレーザー等による燃料デブリの切断過程で格納容器(PCV)内の空気中に微細な切断片(微粒子)が飛散することが予想されます。特にα核種を含む微粒子(αエアロゾル)は吸入したときの内部被ばく影響が大きいため、閉じ込め対策に加え1F-PCV内の「その場」での濃度のモニタリングが重要です。

しかし、1F-PCV内の極めて高湿度かつ高線量環境で高濃度のαエアロゾルを測定するためには、ろ紙にエアロゾルを集塵し、半導体検出器により測定するタイプの従来型α線用ダストモニタは、高湿度環境での検出器誤動作、ろ紙の目詰まり、濃度測定レンジ(上限)の制限、β/γ線感度等の課題があり、その適用は非常に困難です。

そこで、1F-PCV内でαエアロゾルをモニタリングするための要求事項として、①「高湿度環境での確実な動作」、②「ろ紙を使わないαエアロゾル測定」、③「高濃度のαエアロゾル測定」、④「β/γ線環境でのαエアロゾルの選択的測定」の四つを抽出し、それらを満足する機器としてIn-situ Alpha Air Monitor(IAAM)を設計・試作しました。

試作したIAAMとその使用イメージを図1-15に示します。前述の要求事項に対する開発のポイントは次の通りです。

① 流路入口のヒーターでの乾燥により空気中の水分による検出器の誤作動や故障を抑制できます。水滴の吸い込みによるα線の遮蔽の懸念も除外可能です。

② 幅がα線の飛程より十分短い「扁平型」の流路に対してα線検出器を垂直配置することで、ろ紙を使わないαエアロゾル測定を可能としました。

③ 薄膜シンチレータと多チャンネル光電子増倍管を組み合わせ、放射線の入射によるシンチレータの蛍光を64群に分離して測定することで、信号の数え落としや検出器不感状態の影響を軽減しました。本手法により、最大3.2×102 Bq/cm3(1F-PCV内で想定される濃度の30倍以上)のαエアロゾル濃度を測定できます。

④ 薄膜シンチレータの厚さと信号処理時の「しきい値」をα線の選択的測定に最適化しました。100 mSv/hの高γ線環境においても、γ線の影響なしにαエアロゾルのみを選択的に測定可能です。

開発したIAAMは、1F-PCV内の燃料デブリ切断作業で想定される状況下でαエアロゾル濃度を「その場」でモニタリングできるため、濃度の異常変動等を速やかに検知できるなどの利点があり、安全性の大幅な向上が期待できます。今後は、東京電力ホールディングス(株)と情報交換をしつつ、1Fの作業環境における動作確認と運用を目指します。IAAMの高濃度αエアロゾルの測定能力は、1F以外の核燃料施設の廃止措置においても作業者の安全性向上への貢献が期待出来るため、そのような現場への適用も見据えて研究開発を進めていきます。

本成果は、弘前大学被ばく医療総合研究所との共同研究によるものです。

(坪田 陽一)