図1-16 開発したPhoswich型α/β/γ線弁別検出器
図1-17 開発したポータブルα/β/γ線連続空気モニタリング装置
図1-18 PSD技術による弁別結果
東京電力福島第一原子力発電所の廃炉現場では、α線、 β線、 γ線の放出核種が混在する汚染が存在します。そのため、各放射線を測定する際に、 α線ではZnS(Ag)シンチレーション検出器、β線ではGM計数管、γ線ではNaI(Tl)シンチレーション検出器が用いられます。このように放射線に対して個別の検出器が必要となるため、未知の放射性物質が混在する汚染環境の測定では時間が掛かります。
そこで、未知の放射性物質を迅速に検出するために、Phoswich型α/β/γ線弁別検出器を開発しました(図1-16)。また、開発した検出器をポータブル型の空気サンプラーと組み合わせることで、ポータブルα/β/γ線連続空気モニタリング装置も開発しました(図1-17)。
検出器は、第1層目にスチルベンシンチレータ(サイズ:6 mm×6 mm×6 mm)、第2層目には1層目と同じサイズのGd3(Ga、Al)5O12(Ce)(GAGG)シンチレータを備えています。GAGGシンチレータの底面にはシリコン光電子増倍管(SiPM)を光学的に結合しました。SiPMから出力される電圧信号にパルス波形弁別(PSD)技術を適用することにより、α線、β線、γ線を正確に弁別測定することができました(図1-18)。
開発した検出器のエネルギー分解能は、5.5 MeVのα線に対して22.1±0.21%FWHM(半値幅)、0.662 MeVのγ線に対して10.3±0.18%FWHMでした。また、実測したエネルギースペクトルは同じ測定体系のモンテカルロシミュレーションの計算結果とよく一致しました。
また、ポータブルα/β/γ線連続空気モニタリング装置を用いて、222Rn(ラドン)濃度が約200 Bq/m3のコンクリート建物の地下において、222Rn濃度の連続測定を実施しました。その結果、α線、β線、γ線を正確に弁別測定することができ、かつ、222Rn 及び 220Rnの子孫核種である212Bi(6.1 MeV)、214Po(7.7 MeV)、212Po(8.8 MeV)のそれぞれのピークを検出することに成功しました。
α/β/γ線を測定するには、従来は三つの検出器をそれぞれ使い分ける必要があり、連続モニタリング装置への適用に不向きでした。開発したモニタリング装置は、一つの検出器でα線、β線、γ線を正確に弁別しエネルギースペクトルを測定できることから、廃止措置の施設や原子力施設等から放出される未知の放射性物質の早期検出に役立てることができます。
本研究は、日本学術振興会科学研究費若手研究(JP19K15482)「γ線バックグラウンド下で動作可能な遠隔α β空気モニタリング装置の開発」の支援を一部利用して実施されました。
(森下 祐樹)