1-9 光ファイバを用いた片側読み出し型放射線位置検出器の開発

−新分光システムによる光の波長分析により高感度位置検出を実現−

図1-19 光ファイバを用いた片側読み出し型放射線位置検出器

図1-19 光ファイバを用いた片側読み出し型放射線位置検出器

(a)開発した検出器の構成、(b)開発した検出器の写真を示します。プラスチックシンチレーションファイバの発光を石英光ファイバ、バンドパスフィルタを介してフォトンカウンティングヘッドにて受光します。これにより、検出効率の大幅な改善に成功しました。

 

図1-20 福島県帰還困難区域屋外環境における実証試験

図1-20 福島県帰還困難区域屋外環境における実証試験

(a)実証試験の様子、(b)フィルタごと・測定条件ごとに得られた計数率、(c)実際の表面線量率とアンフォールディング結果の比較を示します。新たに開発した片側読み出し型光ファイバ検出器により、100 μSv/h以下のホットスポットを捉えることに成功しました。

 


私たちは東京電力福島第一原子力発電所(1F)廃炉作業環境における作業者の被ばく低減を目的とし、光ファイバを用いた放射性物質分布測定法の開発を行っています。光ファイバは本来の用途である光伝送路としての利用だけではなく、光ファイバそのものを放射線センサとするアプリケーションも多くあります。その代表例として、光ファイバ両端への光の到達時間差から光ファイバへの放射線入射位置を特定する飛行時間分析(Time-of-Flight:TOF)法があります。TOF法は光ファイバに沿って一次元的に放射線分布を測定可能であり、複雑かつ広範囲の汚染分布を一次元的ないしは二次元的に迅速に測定する場合に有用な手法ですが、原理上光ファイバ両端からの光読み出しが必須であるという問題があり、この点が設置自由度及び高線量率対応の点で制約となっていました。この点を解決するため、名古屋大学との共同研究により片側読み出し型光ファイバ放射線位置検出器を開発し、原理検証を進めてきました。本研究では分光に特定の波長の光のみを通すバンドパスフィルタと光電子増倍管を用いることにより片側読み出し型光ファイバ放射線位置検出器の検出効率を改善し、アプリケーションの幅を広げることを目指しました。

開発した検出器の構成を図1-19に示します。本検出器は放射線センサ部のプラスチックシンチレーションファイバの発光を、石英光ファイバ及びバンドパスフィルタを介してフォトンカウンティングヘッド(光電子増倍管)に入射し、光子計数率を測定します。ここで、バンドパスフィルタ(透過波長:450 nm、・・・、550 nm)を順次入れ替えることにより、光ファイバ内での光減衰波長依存性を反映した計数率スペクトルを得ることができます。これにより、アンフォールディング法(逆推定法の一種)による片側読み出し型光ファイバ放射線位置検出器の高感度化を実現しました。福島県帰還困難区域屋外環境における実証試験の様子及び結果を図1-20に示します。実証試験の結果、3通りの測定条件についてサーベイメータとの比較で最大表面線量率100 μSv/h未満のホットスポット位置を大まかに捉えることができ、これまでの検出下限である数十 mSv/hを大幅に改善できました。この片側読み出し型光ファイバ放射線位置検出器の検出効率改善及び実環境での実証は、今後の1F原子炉建屋内への実用化につながる有望な成果です。

本研究は、原子力機構「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」(JPJA19B19206529)の「一次元光ファイバ放射線センサを用いた原子炉建屋内放射線源分布計測」の成果の一部です。

(寺阪 祐太)