図1-21 1F1/2号機排気筒付近における空間線量率と高濃度汚染箇所を可視化した3次元マップ
東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故から11年と半年の歳月が経過しましたが、1F建屋内には作業者の立ち入りや長時間作業が困難な高線量率エリアが残されています。この作業現場において放射能汚染の分布を把握することは、作業者の被ばく低減や作業計画の立案を進める上で極めて重要です。
このような背景を踏まえて、作業環境の放射能汚染分布を3次元的に見える化する統合型放射線イメージングシステム[iRIS(アイリス):integrated Radiation Imaging System]を考案しました。これは、放射性物質を見える化するカメラであるガンマ線イメージャ、環境認識デバイス、ロボット並びにクロスリアリティ技術等、複数のセンサ・機器・可視化技術を統合することにより、遠隔にて放射能汚染の分布を3次元的に把握するというコンセプトのもとに創出したものです。
これまでに、ガンマ線イメージャの一種であるコンプトンカメラと、レーザ光を利用したSLAM(自己位置推定と環境地図作成の同時実行)機器を組み合わせて、移動しながら一度に作業環境の汚染分布をスキャンできるシステムを開発しました。この実証試験を、東京電力ホールディングス株式会社の協力のもと1F1/2号機の排気筒付近で実施しました。当該排気筒の下部は線量率が高く、作業者の進入や長時間の滞在が難しいエリアです。コンプトンカメラを用いた従来の定点測定(汚染の2元分布測定)では、高濃度汚染箇所の特定のためには複数点から対象エリアを測定しなければならず、コンプトンカメラの移動と測定を繰り返す必要がありました。一方でiRISでは、排気筒下部に進入することなく比較的線量率が低い通路上を歩行移動しながら連続的に測定を実施することにより、わずか5分未満でデータ取得を完了できました。さらに、SLAM機器で取得した作業現場の3次元モデルに、コンプトンカメラで取得した放射性物質のイメージをカラー表示することによって、高濃度汚染箇所(排気筒下部の配管)を可視化した汚染の3次元マップを描画することに成功しました(図1-21)。同時にサーベイメータの測定情報を組み合わせることにより、オペレータの移動ルート上の線量率もマップ上に表示できます。今後、さらに高線量率環境での利用を目的とし、原子炉建屋内部における実証試験を進めます。
本成果はプレス発表後に、複数の報告会や雑誌記事*1-2で紹介しています。
(佐藤 優樹)
*1 佐藤優樹, 統合型放射線イメージングシステムの開発, 検査技術, vol.27, no.5, 2022, p.9-15.
*2 佐藤優樹, 統合型放射線イメージングシステムiRISを用いた放射能汚染の3次元可視化, Isotope News, no.781, 2022, p.19-23.