2-2 軽水炉事故時の格納容器内の流れを把握する

−外面冷却と初期密度成層の位置関係による物質輸送挙動の変化−

図2-6 CIGMA装置による外面冷却実験の概要

図2-6 CIGMA装置による外面冷却実験の概要

直径2.5 m 、高さ11 m の試験容器を有し、様々な計測装置により高精度かつ高分解能に3次元的な挙動を測定することができます。冷却条件①は初期密度成層よりも冷却が狭いケース、②は広いケースです。

 

図2-7 外面冷却で誘起されるヘリウム濃度分布の変遷

図2-7 外面冷却で誘起されるヘリウム濃度分布の変遷

初期密度成層と冷却面の相対的な位置関係により、ヘリウム濃度の空間分布の時間変化は大きく変わります。冷却条件①(冷却面<初期密度成層)では「成層の消失挙動」、冷却条件②(冷却面>初期密度成層)では「成層の浸食挙動」が見られました。

 


軽水炉のシビアアクシデント(SA)時、格納容器内は、高温の気体が噴出することで、高温・高圧状態となります。加えて、燃料棒の損傷に伴い、炉心に含まれるジルコニウム金属と高温の蒸気が反応(水–Zr反応)することで大量の水素が発生します。高濃度の水素が一か所に溜まる(局在化する)と水素爆発の脅威が高まります。2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故では、格納容器の過温破損により水素が原子炉建屋に漏洩し、爆発によって建屋が大破しました。

私たちは、SA時の格納容器内における高温・多成分気体の複雑な熱及び物質輸送現象を把握するために、実験及び数値シミュレーションを駆使した研究を進めており、その中核を成す実験装置がCIGMAです(図2-6)。本装置は、格納容器気相部を模擬した直径2.5 m、高さ11 mの試験容器を持つ大型装置です。特徴として、試験容器を外面から冷却して容器内で自然対流を駆動させ、壁面の冷却及びガスの局在化や混合挙動を調査することができます。

容器壁を通じた外部との熱のやり取り等により生じる自然対流は、SA時の格納容器冷却挙動を把握する上での重要な物理現象です。これに関連するCIGMA実験の一例を図2-6に示します。水素のような軽い気体が局在化する代表的な流体力学的現象に、閉じた容器内の上部に溜まる密度成層化(流体が混ざり合わず、層状化している様子)があります。本実験では、初期条件として空気とヘリウム(水素の代替気体)の混合気体により密度成層を形成した後に、外面冷却により自然対流を促しました。圧力、温度分布、ガス組成を測定することで、容器冷却挙動及び熱と物質の分布の変遷(輸送挙動)を把握しました。冷却条件に関して、初期密度成層よりも冷却面が狭い場合と広い場合の2条件で実施しました。以下に、ガス組成に着目した特徴的な現象を示します(図2-7)。

冷却条件①(冷却領域が成層厚よりも狭い場合)では温度低下により、成層内の密度が成層より下部の気体密度を上回ったときに混合が開始され、成層内のヘリウム濃度は低下しつつ、成層は下方に拡大します(成層の消失)。一方、冷却条件②(冷却領域が成層厚よりも広い場合)では、冷却によって発生する大きな自然対流により、成層の下端から浸食します(成層の浸食)。

自然対流に関する実験は過去に欧州でも実施されていましたが、以上のように冷却位置と初期密度成層の相対的位置による挙動の違いに関して、系統的な整理が本研究によって初めてなされました。これらの知見は、SA時の格納容器内での熱・物質輸送の振る舞いを理解することに役立ち、それに基づいて最適なアクシデントマネジメント策(事故対策)の提言等をする礎になります。また、近年発展が目覚ましく、将来的に更なる活用が期待されている数値シミュレーションの有効性評価用データとしても有用です。

CIGMA装置は原子力規制委員会原子力規制庁からの受託事業「軽水炉のシビアアクシデント時格納容器熱流動調査」で整備されました。

(安部 諭)