2-3 原子炉過酷事故における燃料デブリの堆積形態の予測

−格納容器の床面に堆積する塊状デブリの質量割合の測定−

図2-8 格納容器内の冷却水中で想定されるデブリの形態

図2-8 格納容器内の冷却水中で想定されるデブリの形態

SAでは、RPVからの溶融物の落下条件により、PCVの床面に堆積するデブリは異なる3種類の形態(①~③)となると想定されます。本研究の対象は塊状デブリです。

 

図2-9 塊状デブリの質量割合を予測する相関式の構築

図2-9 塊状デブリの質量割合を予測する相関式の構築

低融点金属を溶融物として冷却水に落下させる模擬実験の結果に基づき、溶融物の落下条件を規格化した無次元数(Nagg)を用いて、塊状デブリの質量割合(Magg)を予測する相関式を構築しました。

 


原子炉過酷事故(シビアアクシデント:SA)では、原子炉圧力容器(RPV)が破損して高温の溶融炉心(溶融物)が格納容器(PCV)に落下する可能性があります。このとき、PCVに落下した溶融物が床面のコンクリートを侵食する溶融炉心/コンクリート相互作用(MCCI)はPCVの健全性の脅威となります。MCCIの防止・緩和を目的として、日本ではあらかじめRPVが破損する前にPCVへ注水する対策を採用しています。当該対策の有効性を評価するためには、床面に堆積した溶融物(デブリ)の冷却性を評価することが必要です。

PCVの床面に堆積したデブリは、溶融物の落下条件(溶融物の物性、温度、冷却水の温度及び水深等)により、異なる3種類の形態となると想定されます(図2-8)。冷却水に落下して粒子化した溶融物が個別に堆積した「粒子状デブリ」、溶融した状態で床面に堆積して粒子同士が結合した「塊状デブリ」及び粒子化せずに直接床面に堆積した「連続層状デブリ」です。塊状デブリ及び連続層状デブリは粒子状デブリと比較して冷却水との接触面積が小さくなるため、冷却性が低下します。

デブリの冷却性を評価するためには、PCVの床面に堆積したデブリの総質量に占める異なる形態のデブリの質量割合と堆積範囲を予測することが必要です。塊状デブリの質量割合の予測手法の構築を目的として、冷却水に低融点金属を溶融物として落下させる模擬実験を実施しました。実験装置の床面に堆積したデブリを回収することにより、塊状デブリの質量割合を計測しました。落下条件である溶融物の温度、冷却水の温度及び水深を系統的に変化させた場合の塊状デブリの質量割合の変化を調査しました。

実験結果に基づき、溶融物の落下条件を規格化した無次元数を用いて塊状デブリの質量割合を予測する相関式を構築しました(図2-9)。溶融物の落下条件を規格化した無次元数は、落下条件である溶融物の温度、冷却水の温度及び水深を単純に掛け合わせた無次元の値であり、複数ある実験条件を単一の無次元数で表現するものです。構築した相関式をスウェーデン王立工科大学により実施されたDEFOR-A実験結果*に適用しました。DEFOR-A実験は、本研究と同様に塊状デブリの質量割合を測定した模擬実験です。本研究とは物性が異なる酸化物を溶融物として用いていますが、本研究と同様の特徴を有する塊状デブリが堆積しました。構築した相関式は塊状デブリの質量割合の分布の全体の傾向を再現しました。このように、多様な溶融物の落下条件に対して適用できる塊状デブリの質量割合の予測手法を構築しました。

これまでに得た知見に基づき、実際の原子炉のSAで想定される多様な落下条件に対しても適用が可能な機構論的なモデルを構築することにより、デブリの冷却性を評価するための信頼性の高い手法の整備を進めます。

本研究は、筑波大学との共同研究の成果の一部です。

(岩澤 譲)

 

* Kudinov, P. et al., Agglomeration and Size Distribution of Debris in DEFOR–A Experiments with Bi2O3–WO3 Corium Simulant Melt, Nuclear Engineering and Design, vol.263, 2013, p.284-295.