2-4 日本家屋での屋内退避効果の評価に必要なパラメータ値を明らかにする

−粒子状及び気体の元素状ヨウ素の浸透率と沈着率を実家屋とチャンバー実験で取得−

図2-10 チャンバー実験の概略図

図2-10 チャンバー実験の概略図

チャンバーの真ん中を換気口で区切っており、仮想屋内外のI2またはエアロゾルの濃度を測定することができます。仮想屋内外の濃度の時間変化を基に、浸透率と沈着率を求めます。なお、実家屋実験では測定器を家屋内外に置き、屋内外の濃度を測定しました。

 

図2-11 浸透率(a)と沈着率(b)の空気交換率との関係

図2-11 浸透率(a)と沈着率(b)の空気交換率との関係

I2については、浸透率がエアロゾルより小さいことから、粒子状ヨウ素より屋内に侵入しにくいこと、沈着率が大きいことから屋内表面に付着しやすいことが分かりました。なお、エアロゾルにおける実家屋実験とチャンバー実験での値に相違がないことから、チャンバー実験で得られたパラメータ値を実家屋に適用可能であると言えます。

 


屋内退避は、原子力災害時の住民の被ばくを低減するための防護措置の一つです。屋内の放射能濃度は主に①単位時間当たりに屋内空気が入れ替わる割合を表す「空気交換率」、②屋外の放射性物質が隙間に付着せずに屋内に侵入する割合を表す「浸透率」、③屋内での壁面や床面への単位時間当たりの沈着割合を表す「沈着率」によって計算されます。

原子力災害初期の内部被ばく評価に重要な核種の一つとして、ヨウ素が挙げられます。大気中に放出されたヨウ素の形状は化学的性質・挙動によって、①気体中に浮遊する微小粒子(エアロゾル)に付着したヨウ素(粒子状ヨウ素)、②気体の元素状ヨウ素(I2)、③気体の有機ヨウ素(CH3Iなど)に大別され、浸透率と沈着率の値は互いに異なり、ヨウ素形態の存在割合によって屋内退避の効果が異なる可能性があります。しかしながら、特にI2の知見はほとんどなく、さらに浸透率と沈着率は床面や隙間の材質によって異なります。家屋の特徴は国によって異なるため、海外で調査されたパラメータ値を、日本家屋での屋内退避効果の評価に適用することは不適切であり、日本家屋に応じたパラメータ値を整備する必要があります。

本研究では、日本家屋での浸透率と沈着率の取得を目的に、日本の実家屋での実験(実家屋実験)を実施しました。I2については、毒物のため実家屋で実験できないため、実家屋の空気交換を模擬したチャンバーでの実験(チャンバー実験)によって評価しました。チャンバー実験の結果の実家屋への適用可能性を検討するため、粒子状ヨウ素については両実験で評価しました。なお、粒子状ヨウ素の挙動は同粒径を持つ他のエアロゾルと変わらないとし、本実験では粒径0.3~1 μmのエアロゾル(NaCl粒子)を用いて求めた値を、粒子状ヨウ素の値として評価しました。この粒径は、原子力事故時に観測された粒子状ヨウ素と同じ粒径です。実家屋実験は集合住宅2部屋と戸建住宅3戸で実施し、屋内外のエアロゾル個数濃度を連続測定することで、浸透率と沈着率を求めました。チャンバー実験では、換気口で真ん中を区切ったチャンバー(図2-10)を利用し、仮想屋内外の濃度を交互に測定して、I2とエアロゾルの浸透率と沈着率を求めました。

実験結果を図2-11に示します。エアロゾルとI2の浸透率はそれぞれ0.3~1と0.15~0.7であり、I2の方が小さいことから、元素状ヨウ素は粒子状ヨウ素よりも侵入しにくいことが分かりました。エアロゾルとI2の沈着率はそれぞれ0.007~0.2 h-1と0.2~1.5 h-1であり、I2の方が大きいことから、元素状ヨウ素は粒子状ヨウ素よりも表面に沈着しやすいことが分かりました。エアロゾルの沈着率以外は空気交換率が大きいほど値が大きくなる傾向を示しました。

本研究の結果から、浸透率と沈着率はエアロゾルとI2で異なり、ヨウ素形態の存在割合に応じて屋内退避の効果を評価する必要性を示しています。今後は、これらの値を用いて日本家屋での屋内退避による効果を評価する予定です。

本成果は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「令和2年度原子力施設等防災対策等委託費(防護措置の実効性向上に関する調査研究)事業」の成果の一部です。

(廣内 淳)