2-5 原子炉の配管は巨大地震にどれだけ耐えられるのか

−長期間使用された原子炉配管の地震フラジリティ評価手法の開発−

図2-12 亀裂進展評価手法の妥当性確認試験

図2-12 亀裂進展評価手法の妥当性確認試験

実際の配管に地震による揺れを模擬した荷重を加える試験(a)により、亀裂進展量の実測値(◆)と新たに整備した手法による予測値()とがよく一致していることから、整備した手法の妥当性を確認しました(b)。

 

図2-13 地震による揺れの大きさや配管の使用期間と破損確率の関係の例

図2-13 地震による揺れの大きさや配管の使用期間と破損確率の関係の例

PASCAL-SP2を用いることで、使用年数の増加や地震の揺れによる亀裂進展を評価して破損確率を算出することができ、地震による破損確率である地震フラジリティの変化を定量的に評価できます。

 


東京電力福島第一原子力発電所の事故の教訓を踏まえ、原子力発電所に対する地震を起因とした確率論的リスク評価(地震PRA)やリスク情報の活用が重要となっています。地震PRAでは、安全上重要な機器や配管などの地震による破損確率(地震フラジリティ)を考慮して、炉心損傷頻度などを求めることができます。配管に着目すると、長期間の使用による亀裂などの発生が考えられ、それによって配管の強度が低下し、地震フラジリティが上昇することとなります。そのため、長期間運転された原子炉を対象に地震PRAを実施する際には、経年劣化が配管の地震フラジリティに及ぼす影響を考慮することが重要です。しかし、原子力発電所で起こり得るあらゆる地震の大きさを対象に、地震による亀裂進展も考えて地震フラジリティを算出できる解析コードはありませんでした。

そこで、まず、設計上の想定を超える巨大な地震の揺れによる配管の亀裂の進展を評価する手法を、揺れの大きさや波形を系統的に変化させた実験及び数値解析を通じて整備しました。また、図2-12に示すように、実際の配管に地震による揺れを模擬した荷重を加えた試験において、この評価手法の妥当性を確認しました。

次に、この手法を、亀裂を有する構造物の破壊に影響する様々な因子の不確実さを考慮して構造物の破損確率を定量的に評価する確率論的破壊力学に基づき、亀裂の進展などを評価して配管の破損確率を求める解析コードPASCAL-SPに組み込むことで、長期間使用された配管の地震フラジリティを算出できる唯一の解析コードPASCAL-SP2を開発しました。

さらに、PASCAL-SP2を用いて配管の地震フラジリティを評価するための手順、推奨される手法及びモデルなどについて、それらの技術的根拠とともに取りまとめた評価要領を整備しました。整備した解析コード及び評価要領を活用することで、図2-13に示すように、使用年数の増加による亀裂の発生や進展、並びに地震による揺れの増大に伴う地震フラジリティ曲線の変化を定量的に評価できます。

今後、PASCAL-SP2及び評価要領を用いて、長期間使用された原子炉配管の地震の揺れに対する安全性や、様々な保全活動の改善効果を破損確率などのリスク指標に対して定量的に示すなど、安全性向上評価などにおけるリスク情報の活用に関する取組みをさらに進めていきます。

本成果は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託事業「原子力施設等防災対策等委託費(高経年化を考慮した建屋・機器・構造物の耐震安全評価手法の高度化)事業」の成果の一部です。

(山口 義仁)