2-6 廃炉で発生するアスベスト廃棄物の処理処分へ道筋

−クリアランスレベル算出のための被ばく線量評価手法の開発−

図2-14 アスベスト廃棄物のクリアランスレベル評価の概要

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図2-14 アスベスト廃棄物のクリアランスレベル評価の概要

アスベスト廃棄物は、処理、処分、再利用方法が金属、コンクリートとは異なるため、アスベスト廃棄物の処理マニュアルに記載される処理・処分方法とそれに従った作業の実態の調査結果に基づいて、被ばく評価手法を新たに開発し、その手法による解析からアスベスト廃棄物のクリアランスレベルを初めて算出しました。

 

図2-15 代表的な核種のアスベスト廃棄物に対するクリアランスレベルの評価結果

図2-15 代表的な核種のアスベスト廃棄物に対するクリアランスレベルの評価結果

被ばく線量評価結果から、年間10 μSvに相当する濃度の最小値を算出しました。その最小値に対して国際基準に沿ってオーダー(桁)で表す方法によりアスベスト廃棄物のクリアランスレベルを算出しました。それらの値は現在のクリアランスレベルと同値以上となりました。

 


原子力発電所の廃止措置(廃炉)で発生する大量の廃棄物のうち、その放射能濃度が極めて低く人の健康への影響がほとんどないものについては、国の認可・確認を経て、普通の廃棄物として再利用または処分できます。これを「クリアランス制度」といい、金属・コンクリートに対して適用されています。

一方、アスベスト廃棄物は、以前はクリアランス制度の対象ではなく、放射能濃度が極めて低くても処理できずに保管されていました。この処理を進めるためには、吸入防止のための二重梱包や溶融無害化処理などの、一般のアスベスト廃棄物に対して行われている特別な処理・処分の特徴を反映した被ばく評価手法が必要となります。そこで、処理・処分の特徴を反映し、以下のようなアスベスト廃棄物の処理・処分時の被ばく経路と評価パラメータを決定して、被ばく線量を評価する手法を開発しました(図2-14)。

まず、特別管理産業廃棄物であるアスベスト廃棄物の処理・処分作業の実態を調査し、被ばく線量評価の対象とすべき被ばく経路を決定しました。アスベスト廃棄物の処分が認められる管理型最終処分場に関する経路などが新たに加わりました。次に、アスベスト廃棄物の特性に基づき、すべての被ばく経路について、被ばく線量評価に使用する評価パラメータの取り得る値の範囲とその分布型(確率密度)を整理しました。そしてクリアランスレベルを算出するための被ばく線量を評価する決定論的解析では、その範囲の中から保守的な代表値を決定しました。さらに、範囲と分布型は評価パラメータの不確かさの影響を評価する確率論的解析で与えました。

この方法を用いて、以前原子炉を対象にクリアランス規則で規定されていた33核種のクリアランスレベルを原子力機構が開発した被ばく線量評価コードPASCLR2により評価しました。その結果、アスベスト廃棄物のクリアランスレベルは現在のクリアランスレベルと同値以上となりました(図2-15)。また、確率論的解析で評価された線量は決定論的解析での線量の10倍以内となり、低確率で生じる値の組み合わせが生じた場合でも被ばく線量が過度に大きくなることがないこととする規制要求を満足し、代表値を組み合わせて評価した決定論的解析の結果が適切であることが確認できました。

以上の結果から、アスベスト廃棄物に対しても、金属・コンクリートを対象とした現在のクリアランスレベルをそのまま適用することが可能であることを明らかにしました。アスベスト廃棄物にもクリアランスレベルが適用可能となったことで、廃止措置で発生するアスベスト廃棄物の処理・処分を適正に進める道が拓け、循環型社会の実現につながることが期待されます。

本成果は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「原子力発電施設等安全技術対策委託費(廃止措置・クリアランスに関する検討)事業」(平成29年度から令和2年度)の成果の一部です。

(島田 太郎)