図3-12 収着実験とモデリングの結果
図3-13 表面における三元錯体の2種類の吸着様式
図3-14 低温レーザー蛍光法の結果
高レベル放射性廃棄物の地層処分では、原子力発電の結果生じた放射性廃液をガラス固化し、地下深部に埋設して処分します。処分した廃棄体の放射能レベルが十分に低下するまでには数万年以上かかるため、長期間の安全性を評価する必要があります。地層処分において、粘土鉱物などを含む周辺の岩盤はウランを含む放射性核種を収着・保持し、その移行を遅延させる天然バリアとして機能します。したがって、粘土鉱物と地下水の接触する界面での放射性核種の収着過程を評価することが重要です。地下水が高濃度の溶存炭酸(DIC)イオンを含む場合、放射性核種と錯体を形成することによって粘土鉱物への収着に影響を与える可能性があります。しかしこの過程の定量的な評価手法はなく、解決すべき課題です。本研究では、使用済燃料の主成分である6価ウラン(U(VI))を対象として、岩盤中に一般的に含まれる粘土鉱物であるイライトへの収着量と収着機構の関係を調べました。
まず、模擬地下水中のDIC濃度を変化させながら、イライトへのU(VI)収着実験を行いました。その結果、U(VI)の分配係数(Rd)、すなわち吸着量がDIC濃度の増加とともに下降しました(図3-12)。次に、収着反応のモデルを用いて実験データを解析したところ、データを説明するためには、粘土鉱物表面で二つの異なる錯体を考慮する必要があることが分かりました(図3-13)。
この二つの錯体に関する収着構造を区別するために、低温時間分解レーザー蛍光分光法(TRLFS)を用いた分光観察を行いました。この方法は、界面に吸着したU(VI)イオンの周りのイオンや配位子の結合状態を区別することに適しています。私たちのこれまでの研究で、スペクトル測定から、吸着種の構造を区別できることが分かっています。本研究ではその感度を高めるために、試料を3.3 Kと低温まで冷却しました。その結果、高感度で検出した蛍光スペクトルの形状が変化しないことから、U(VI)はDIC濃度で抑制を受けながらも、イライトに収着することが分かりました(図3-14)。すなわち、535 nmを中心とする広がったピーク形状は、複数のスペクトルが畳み込まれていることを示しているため、複数の収着種の存在を示します。2種類の錯体の関与は、二つの指数関数の減衰曲線(蛍光寿命に対応)の解析で明らかになりました。
本研究を通してイライトへのU(VI)吸着の量的関係と収着機構の関係が明らかになりました。この知見を活用することで、一般の粘土鉱物への放射性核種の収着を評価できると期待されます。
本研究は、経済産業省資源エネルギー庁からの受託事業「令和2年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(ニアフィールドシステム評価確証技術開発)」の成果の一部です。
(Huiyang Mei)