5-1 ガスとビームの衝突の際に出た光でビームの状態を判断

−ガスシートビームプロファイルモニタの開発−

図5-2 ガスシートビームプロファイルモニタの概念図

図5-2 ガスシートビームプロファイルモニタの概念図

z方向に進むビーム(青色)が、x方向に流れているガスシート(桃色)を通過すると、ビームガス相互作用によりガス粒子が励起・脱励起して光(灰色矢印、黄色)が放出されます。その光をカメラ等で撮影することでビーム形状の情報を含む二次元画像を取得します。

 

図5-3 実際の測定結果を概念図に対比させた図

図5-3 実際の測定結果を概念図に対比させた図

実際に撮影された写真では発生した光の信号が白く検出されており、ビームがガスシートを通過していく様子が観測されました。この写真はビームを上から見た図となっているため、上下(y)方向に光が積算されたものとなります。そのため、ガスシート形状の情報を用いて適切に解析することで、右端の二次元プロファイル及び図5-4の積分プロファイルが得られます。

 

図5-4 従来型モニタと新開発モニタで得られたビームプロファイルの比較

図5-4 従来型モニタと新開発モニタで得られたビームプロファイルの比較

(a)はx方向、(b)はy方向のビームプロファイルを示します。従来型(ワイヤ式)モニタで得られる信号は、図5-3の二次元プロファイルをx、y方向に積分した信号に相当します。両モニタで得られたプロファイルを比較してみると、x、y両方向ともおおむね一致しました。

 


J-PARCのような大強度陽子加速器において、大強度を実現するために最も重要なことは加速器機器の放射化を最低限に抑えることです。機器の放射化は設計軌道から外れたビーム粒子の衝突に起因し、放射線量が高くなると機器のメンテナンスが困難となります。そのため、ビームの軌道や形状(プロファイル)を常に監視して、設計通りの状態になるように適切にビームを制御する必要があります。現在J-PARCリニアックでビーム形状を測定しているモニタは、金属ワイヤとビームの相互作用を利用する方式で、ビーム軌道を設計軌道からそらせてしまう可能性が高く、ワイヤの放射化及び破損を引き起こすという欠点があり、加速器大強度化の枷となっていました。

そこで私たちは、図5-2に示すようなワイヤの代わりにガスを利用した、ビームへの影響が小さく放射化・破損しないモニタを開発しました。ビーム粒子がガス粒子の近傍を通過すると、相互作用によりガス粒子が励起され、光が放出されます。その光の分布はビーム形状に依存するので、発生する光を直接カメラで撮影すればビーム形状が得られます。そこで私たちは、導入するガスをシート状にする工夫を行い、ビームの断面形状の情報が得られるモニタとしました。このモニタを用いて、J-PARCのビームによる光を撮影した写真が図5-3の白黒画像です。白い部分が発生した光による信号で、ビームがガスシートを通過する様子が観測できました。この画像は直ちにビーム断面形状を示すわけではありませんので、データ解析により断面に変換する手法を考案しました。この解析により画像データからビーム断面形状の情報に変換することに成功し、図5-4のように従来型モニタで得られた結果と一致するデータが得られました。

一般に、ワイヤではなくガスを利用した場合でもビーム粒子の軌道をそらせる可能性があるため、ビーム品質が悪化すると予想していました。しかし、微量のガスを導入した場合は予想に反してビームの品質が向上する、という結果が得られました。これはビームガス相互作用により光とともに生じるプラズマが、ビーム品質の悪化を招くビーム粒子同士の反発力を打ち消したためと考えられます。今後この現象の研究を進め、ビームガス相互作用メカニズムのさらなる理解を深め、より安定なJ-PARCを目指すとともに、さらなる大強度化を実現したいと考えています。

(山田 逸平)