6-2 超高温炉内環境の出力分布測定に挑戦

−高温ガス炉の炉外漏えい中性子による出力分布測定法の開発−

図6-3 高温ガス炉の炉外検出器による炉内燃料への感度

図6-3 高温ガス炉の炉外検出器による炉内燃料への感度

HTTR体系で圧力容器近辺に炉外検出器を想定した際の検出器信号に対する、各燃料ブロックで発生する中性子の寄与を示します。赤いセルが燃料ブロックです。全炉心で合計すると1になるように規格化しています。

 

図6-4 炉外検出器の移動概念

図6-4 炉外検出器の移動概念

炉外検出器を移動させる軌道の一例です。本概念はCT技術に類似した原理を用いますので、測定検出器の移動方法もCTと同様、螺旋軌道が理想的です。

 


高温ガス炉では、ヘリウムガス冷却材を用い、炉内の核分裂エネルギーを熱エネルギーとして取り出します。高温工学試験研究炉(HTTR)では、2004年4月19日に世界で初めて原子炉出口冷却材温度950 ℃の達成に成功しました。この高温を利用し、熱効率50%の高効率な発電、カーボンニュートラルに期待される水素製造など多くの可能性が期待できます。

一方で、現在商用利用されている軽水炉では、炉内の温度が300 ℃程度であるため、炉内への直接的な中性子検出器の挿入が可能です。そして、この炉内検出器を利用して燃料集合体ごとの出力分布の測定が可能です。これにより、効率的に燃料を燃やすための燃料管理が可能となります。

それに対し、高温ガス炉では、炉内の温度が最高で1000 ℃にも達する超高温環境であるため、炉内への検出器の挿入ができず、軽水炉で培ってきた運転管理技術の一部が適用できないことになります。また、高温ガス炉の運転管理においても、炉内の出力分布が測定できれば、燃料管理による効率的な燃焼の他に、燃料温度推定精度の向上により、安全裕度を合理的に削減し、より経済的な高温ガス炉設計の実現が可能となります。

この観点から、炉外検出器を用いた炉外漏えい中性子の観測による炉内の出力分布測定法を検討するに至りました。幸運なことに、中性子減速材の特性の違い(軽水炉:軽水、高温ガス炉:黒鉛)により、高温ガス炉の中性子の飛程が軽水炉よりも長いことが利点になることを発見しました。図6-3に、高温ガス炉の炉外検出器による炉内燃料への感度を示します。検出器信号に対する各燃料ブロックで発生する中性子の寄与を表しますが、炉心の中心部分まで感度があることが分かります。軽水炉の場合、外周部の燃料集合体しか測定ができません。

この利点を活かし、多くの測定点を設けることによるCT(Computed Tomography)と同様の原理の出力分布の逆算法を発明し、HTTR体系で数値的な原理実証に成功しました。図6-4に示すように、現時点では、CTと同様、螺旋軌道による検出器の駆動を想定します。

このアイデアの有意性が認められ、2021年度、文部科学省原子力システム研究開発事業(JPMXD02)「高温ガス炉の出力分布測定のための核計装システムの開発」として課題が採択され、原子力機構、株式会社ANSeeN、静岡大学の産学官の連携で実用化に向けた開発を進めています。

(深谷 裕司)