図6-5 我が国唯一の高温ガス炉である高温工学試験研究炉(HTTR)用の被覆燃料粒子(CFP)の断面図
図6-6 1500 ℃までの昇温前後の試料のEDXスペクトル(上が昇温前、下が昇温後)
高温ガス炉(HTGR)の燃料の最小単位は、直径1 mm程度の被覆燃料粒子(CFP)です。我が国では、UO2の小球である燃料核を四重に被覆したCFPを用いています(図6-5)。核分裂性物質及び核分裂生成物(FP)は被覆層によって閉じ込められ、各CFPに保持されます。しかしながら、破損していないCFP(健全CFP)からですら、事故が起こらなくてもHTGR燃料の寿命のうちにはFPであるセシウム(Cs)のうち0.34%ほどが被覆層中を拡散して放出されるという計算結果があります*。この健全CFPからのCsの漏れを減らすことができれば、原子炉の保守時の被曝線量を低く抑えられることから、遮蔽壁を薄くする等によりプラント小型化と建設コスト削減が可能になります。そのためには、(a)拡散障壁である被覆層を厚くする、(b)CFP中にCsを捕獲する物質を添加する、という二つの方法が考えられます。本研究では後者の実現可能性調査を行いました。
まず、基本方針を定めました。本研究では、CFP被覆層のうち最も内側である低密度熱分解炭素層(バッファ層)にCsを捕獲するための元素を添加することにしました。文献調査により、混ぜる元素としては、Csとともに炭素に吸収されやすく、かつCsと化合物を形成する第15族元素が適当であろうと予測しました。そこで、第15族元素をバッファ層に添加することにより、健全CFPからのCsの漏れを抑えることを基本方針としました。
次に、第15族元素のうち毒性がないアンチモン(Sb)とビスマス(Bi)について、本当にバッファ層中でCsを捕獲することができる可能性があるのかどうか、実験的に調べました。まず、炭素板材(バッファ層の模擬物質)をCsとSb(Cs-Sb)またはCsとBi(Cs-Bi)を重量比1:1の混合溶融物中に590 ℃で1時間保持し、Cs-SbまたはCs-Biを炭素中に吸収させました。次に、取り出した炭素板材をAr中で10 ℃/minで1500 ℃(HTGR燃料の通常運転時の最高温度と同等)まで昇温しました。そして、昇温の前後に炭素板材中の元素をエネルギー分散型X線(EDX)分光法で調べたところ、Cs-Biに浸した炭素板材からはCsがほとんど消えてしまいました(図6-6(a))が、Cs-Sbに浸した炭素板材にはCsが残っていました(図6-6(b))。なお、Cs単独に浸した炭素板材の場合、昇温によりCsのピークはほとんど消滅することを別途確認しました。
以上により、Csを捕獲するためにバッファ層に添加する元素としては、Biは不適当ですが、Sbは有効である可能性があることが分かりました。今後は長時間の加熱試験を行い、Sbが有効かどうかさらに詳しく調べたいと考えています。
本研究は、福井大学との共同研究の成果の一部です。
(相原 純)
* Sawa, K. et al., Prediction of Nongaseous Fission Products Behavior in the Primary Cooling System of High Temperature Gas-Cooled Reactor, Journal of Nuclear Science and Technology, vol.31, issue 7, 1994, p.654-661.