図6-1 高温ガス炉の特長とHTTR−水素製造試験施設
高温ガス炉は、高温の熱を利用した水素製造、ヘリウムガスタービンによる高効率発電等の多様な産業利用に応えることができる安全性の高い原子炉です(図6-1左)。これまで、原子力機構では、我が国唯一の高温ガス炉である高温工学試験研究炉(HTTR)を用いた各種の実証試験、水素製造技術やガスタービンの開発、高温ガス炉の実用化を目指した商業炉の検討や国際協力を進めてきました。HTTRについては、2004年に950 ℃の熱を原子炉から取り出すことに世界で唯一成功し、2010年には950 ℃で50日間の連続運転により安定に高温の熱を供給できることを実証しました。また、2011年に、原子炉の冷却機能を喪失した異常事象を模擬した試験を行い、人為的な操作がなくとも原子炉出力がほぼゼロに低下して自然に静定し安全な状態に維持されることを実証しました。この後、東日本大震災を機に2013年に制定された新規制基準への適合性確認審査のため長期間停止していましたが、2020年6月に原子炉設置変更許可を取得し、2021年7月に運転を再開しました。
現在、地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの排出量を削減する「脱炭素化」が世界的に取り組まれています。我が国においては、2020年10月に当時の菅内閣総理大臣が宣言した「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」を受け、2021年6月に経済産業省が中心となって「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」として、14の重要分野ごとに高い目標を掲げた実行計画が策定されました。その中で、原子力産業は重要分野の一つに指定されており、高温ガス炉に関しては、「①HTTRを活用し、安全性の国際実証に加え、2030年までに大量かつ安価なカーボンフリー水素製造に必要な技術開発を支援。②安全性・経済性・サプライチェーン構築・規制対応を念頭に置いた開発支援を行いながら、技術開発・実証に参画。海外の先行プロジェクトの状況を踏まえ、海外共同プロジェクトを組成していく。③日本の規格基準普及に向けた他国関連機関との協力を推進。」と記載され、高温ガス炉とそれに関連する技術について、大きな期待とプロジェクト推進の強い意志が示されています。
このような状況の中、原子力機構は、HTTRの運転・試験等で得られた知見を活用した原子炉施設の耐震健全性評価上重要な耐震重要度分類の策定(トピックス6-1)、高温ガス炉の特徴を利用した出力分布測定法の開発(トピックス6-2)、放射性核種の閉じ込め性能を強化した被覆燃料粒子の開発(トピックス6-3)、カーボンフリー水素製造法である熱化学法水素製造法ISプロセスの水素生産効率向上及び長時間安定運転の研究(トピックス6-4及び6-5)、高温ガス炉のさらなる安全性向上及び設計手法の高度化の研究(トピックス6-6及び6-7)を進めています。また、HTTR―水素製造試験プロジェクト(図6-1右)を今年度より開始しました。本プロジェクトでは、HTTRに水素製造施設を新たに接続し、HTTRから得られる高温熱を活用した水素製造技術の確証を行う計画で、水素製造施設と接続するための改造内容の具体化、許認可手続、設備改造及び試験を段階的に実施します。