6-5 IS法による水素製造運転の長時間化を達成

−閉サイクルループを用いた新規の起動手順を導入−

図6-9 ループ運転と水素製造運転の比較

図6-9 ループ運転と水素製造運転の比較

反応器ごとに運転可能な閉サイクルループを構成するようにプロセスを分割することで、起動時の組成調整を独立して行うことができます。

 

図6-10 閉サイクルループ装置構成例:HI蒸留塔ループ

図6-10 閉サイクルループ装置構成例:HI蒸留塔ループ

ループ運転が可能となるように、HI蒸留などのISプロセスの主要な反応器ごとに四つの閉サイクルループに分割して再構成しました。

 

図6-11 連続水素製造試験による水素製造量の測定結果

図6-11 連続水素製造試験による水素製造量の測定結果

既設の連続水素製造試験装置に対して、ループ運転による起動手順を適用することで、従来よりも長時間となる150時間の運転に成功しました。

水素社会の実現を目指し、高温ガス炉の熱利用技術として、熱化学法水素製造法ISプロセス(IS法)の研究開発を進めています。IS法は、ヨウ素と硫黄の化学反応を複数組み合わせて水を分解する化学プロセスです。

長時間の安定した水素製造運転には、ISプロセス内を流れるヨウ化水素(HI)やヨウ素(I2)などの多くの成分を含む溶液やガス(流体)に対して、起動時の過渡状態に発生する流体の組成変動を解消して、運転を開始しなければなりません。これまでの起動手順では、ISプロセスを構成するHI濃縮や蒸留などの、分離や反応により流体の組成を変化させる反応器を、全て同時に起動していました。この場合、起動の過渡状態で、様々な要因、例えば、溶液仕込み時の組成のずれや、複数の反応器からの溶液やガスが合流するタイミングのずれで、目標組成からの変動が発生します。さらに、閉サイクルのISプロセスでは、全ての反応器が連結された系統構成で、流体が循環しているため、一つの反応器で発生した変動がプロセス全体に伝わり、他の反応器での変動発生の要因となってしまいます。そのため、安定した起動には、これらの要因を全系で予測した起動手順が必要ですが、これまでは、予測が困難で、初期の数時間~数十時間において運転停止につながる大きな変動が発生し、長時間の安定運転を阻害していました。このため、組成変動を小さくできる起動手順の開発が一つの課題でした。

この課題解決のため、起動時に、反応器ごとの閉サイクルのループを構成することで、反応器の組成調整などの運転を独立に行える起動手順を考案しました(図6-9)。このループ構成をISプロセスの系統構成に適用するため、系統に含まれる反応器を、元の状態に戻すことができる可逆な単位操作の組合せに分類し、それぞれをループとして分割することで、全系を独立した四つの閉サイクルループとして、再構成しました(図6-10)。このようにして分割したループを利用して、各ループ内で、反応器の起動時の組成調整を行い、完了後に、全てのループ間を接続することで、安定に運転を開始できる起動手順を新たに考案しました。

この起動手順を既設の連続水素製造試験装置に組み込むために系統を改造し、ループ運転により起動した結果、組成の安定性が向上し、プロセス内の物質が2回以上循環した上で、従来の5倍以上となる150時間の連続水素製造運転の成功につなげました(図6-11)。今後は、このループ運転を発展させることで、長時間の運転をより安定に行うことが可能な自動運転システムの開発を進めていく予定です。

(田中 伸幸)