1-2 高温ガス炉を利用した水素製造技術の確証に向けて

−HTTR-熱利用試験施設の安全設計方針を策定−

図1 HTTR-熱利用試験施設の鳥瞰図

図1 HTTR-熱利用試験施設の鳥瞰図

HTTRの改造工事により、水素製造施設を新設するとともに、2次ヘリウムガス配管を原子炉格納容器、原子炉建家の外に引き出し、水蒸気改質器に接続します。高温のヘリウムガスは、水蒸気改質器に供給、冷却され、中間熱交換器に戻ります。

 

図2 HTTR-熱利用試験施設の一般産業法規適用範囲及び新たに考慮すべき事象に対する防護方針

図2 HTTR-熱利用試験施設の一般産業法規適用範囲及び新たに考慮すべき事象に対する防護方針

HTTR-熱利用試験施設の炉規法、高圧ガス保安法及び一般産業施設技術基準の適用範囲、並びに新たに考慮すべき事象に対する防護方針を示しています。

 


高温ガス炉は、優れた安全性を有するとともに、高温熱供給が可能な原子炉であることから、大量かつ安価なカーボンフリー水素製造が可能であり、脱炭素社会の実現に向けて早期実用化が求められています。しかし、高温ガス炉と水素製造施設を接続した例は世界にまだなく、高い安全性を実現する安全設計の確立が課題です。

この課題に対して、原子力機構は、原子炉出口冷却材温度950℃を達成したHTTR(高温工学試験研究炉)に、新たにメタン水蒸気改質法による水素製造施設を接続して水素製造を行うHTTR-熱利用試験を計画しており(図1)、原子力規制委員会からの許認可取得を通じて、高温ガス炉と水素製造施設を接続したシステムの安全設計確立を目指しています。本研究では、安全設計の考え方として、水素製造施設の適用法規の考え方やHTTR?熱利用試験施設の新規制基準への適合方針を作成しました。

大量の高圧ガスを扱う水素製造施設は、一般産業法規の技術基準を満足するように建設されることで、高圧ガス災害に対する公衆安全を確保してきた実績があります。また、水素製造施設は、経済的優位性の観点から一般産業法規の下で設計、建設及び運転されることが、産業界から望まれています。そこで、水素製造のため、新たにHTTRに接続する水素製造施設は、水素製造施設異常時における原子力安全の確保を前提に、一般に原子炉施設に適用される「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(以下、「炉規法」)ではなく、高圧ガス保安法等の一般産業法を適用する方針としました。同じく水蒸気改質器は、炉規法に加えて、化学プラントにおいて細かい技術要件が既に整備されている一般産業施設技術基準を適用することとしました(図2)。

次に、原子力規制委員会により新規制基準に適合すると認められたHTTRの安全設計を参考としつつ、水素製造施設の接続に伴い新たに考慮すべき事象に対して、規制要件に適合する防護対策の基本方針を提示しました。具体的には、水素製造施設から漏えいした水素等の可燃性ガスの爆発に対して原子炉建家における爆風圧が10 kPa以下となるよう原子炉建家−水素製造施設間の離隔距離を確保すること、竜巻により新たな飛来物となり得る水素製造施設の破片に対して原子炉建家の健全性を確認すること、水素製造施設内の一酸化炭素等の有毒ガスの漏えいに対して原子炉制御室にいる運転員等の健康状態に影響がないことを確認すること等、規制要件への適合方針を作成しました。

今後は水素製造施設と接続するためのHTTR改造内容の具体化、許認可手続を段階的に実施していきます。

(青木 健)