図1 高温ガス炉の特長とHTTR-熱利用試験計画
高温ガス炉は、高温の熱を利用した水素製造、化学工業分野等への熱、蒸気供給などの多様な産業利用に応えることができる安全性の高い原子炉です(図1左)。我が国唯一の高温ガス炉であるHTTR(高温工学試験研究炉)は、2004年に950℃の熱を原子炉から取り出すことに世界で唯一成功し、2010年には950℃で50日間の連続運転により安定に高温の熱を供給できることを実証しました。また、2011年に、原子炉の炉心流量を喪失させた場合の高温ガス炉の安全性を実証する試験を行い、人為的な操作がなくとも原子炉出力がほぼゼロに低下して自然に静定し安全な状態に維持されることを実証しました。この後、東日本大震災を機に2013年に制定された新規制基準への適合性確認審査のため長期間停止していましたが、2020年6月に原子炉設置変更許可を取得し、2021年7月に運転を再開、2022年1月には、全ての冷却設備を停止し冷却機能喪失を模擬した試験を実施し、高温ガス炉の安全性を実証しました。2022年度からは、HTTRに水素製造施設を接続するHTTR?熱利用試験計画(図1右)を開始しました。規制対応を含めた安全評価を進め、2030年までにHTTRの核熱による水素製造を実証する計画です。
一方、2022年12月22日に開催された、GX実行会議(第5回)で、西村GX実行推進担当大臣兼経済産業大臣が提出した「GX実現に向けた基本方針(案)参考資料」(2023年2月10日閣議決定)においては、高温ガス炉の実証炉を2030年代に運転開始することが目標に定められました。
また、これに先立ち、経済産業省の革新炉ワーキンググループ(開催日:2022年7月29日)において、カーボンニュートラルやエネルギー安全保障の実現に向けた革新炉開発の技術ロードマップ(骨子案)の中で、高温ガス炉の技術ロードマップが示されました。本技術ロードマップでも、高温ガス炉実証炉の運転開始は2030年代とされました。
英国においても、2030年代初頭の導入を目指し高温ガス炉実証炉計画を推進していますが、2022年9月、英国国立原子力研究所(NNL)と原子力機構が参加するチームが、英国の新型モジュール炉研究開発・実証プログラムの予備調査を行う実施事業者として採択され、協力を開始しました。
このような状況の中、原子力機構は、高温ガス炉実証炉に適用可能な、熱サイクルに対する耐高温環境性能を向上した広領域中性子検出器の改良(トピックス1-1)、HTTR?熱利用試験施設の安全設計方針の策定(トピックス1-2)、より合理的な燃料健全性評価手法の構築(トピックス1-3)、高温ガス炉使用済燃料の再処理技術の成立性検討(トピックス1-4)を行いました。また、カーボンフリー水素製造法である熱化学法水素製造法ISプロセスのヨウ素析出による配管閉塞を防止する溶液組成制御法の開発(トピックス1-5)、ヨウ化水素濃縮用カチオン交換膜の開発(トピックス1-6)、沸騰硫酸環境下に耐えられる金属部材のコーティング材の研究(トピックス1-7)を進めています。