1-5 IS法による水素製造の安定性向上に向けて

−ヨウ素析出による配管閉塞を防止する溶液組成制御法の開発−

図1 熱化学法水素製造法ISプロセスの概要

図1 熱化学法水素製造法ISプロセスの概要

IS法は、高温の熱と三つの化学反応を利用して水から水素を製造します。熱源として高温ガス炉と組み合わせることでCO2を排出しないカーボンフリー水素製造を実現します。

 

図2 硫酸添加脱水法によるヨウ素析出防止

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図2 硫酸添加脱水法によるヨウ素析出防止

水溶液の濃度が均一になるよう物質が移動するという平衡現象を利用して溶液組成を制御することで、ヨウ素析出を防止し、配管閉塞リスクを低減することが可能となりました。

 

図3 連続水素製造試験設備における硫酸添加脱水法の実証

図3 連続水素製造試験設備における硫酸添加脱水法の実証

ビーカースケール試験結果に基づき硫酸供給による脱水量を導き出し、硫酸供給量に応じて、重液のHI濃度をI2が析出しない目標値以上まで増加可能であることをプラントスケールで実証しました。

 


水素社会におけるカーボンフリー水素製造の実現を目指し、高温ガス炉の熱を利用した、熱化学法水素製造法ISプロセス(IS法)の研究開発を進めています。IS法は、ヨウ素(I2)と硫黄の化学反応を組み合わせて水を分解し、水素と酸素を生成する方法です(図1)。IS法の主要な化学反応であるブンゼン反応は液相中で進み、水にI2と二酸化硫黄を反応させることで硫酸とヨウ化水素酸(HI)を生成します。この溶液にI2を多量に溶解することで、硫酸を主成分とする軽液相溶液(軽液)とHIとI2を主成分とする重液相溶液(重液)の2液相に分離させ、それぞれ、酸素生成工程と水素生成工程に送ります。

プロセスを起動するとき、溶液の初期組成と定常組成との差異や過渡的な運転状態により、ブンゼン溶液中で水濃度の増加が見られます。I2は水にほとんど溶けないため、I2濃度の高い重液では、水濃度の増加に伴い、溶解度が低下して固体I2を析出し配管閉塞を引き起こします。IS法による安定的な水素製造を実現するためには、この水濃度を制御・調整しI2析出による配管閉塞を抑制する必要がありますが、水素製造運転中にHI、I2、水等の混合物である重液から選択的に水を抜き出すのは容易ではありません。

そこで私たちは、2液相分離状態にある重液と軽液で、2液相間の水濃度が均一化するように物質が移動するという平衡現象に着目し、重液から水を選択的に抜き出すため、軽液の主成分である硫酸を一時的に添加して溶液の組成を制御することで水素製造の安定性を向上する方法を考案しました。具体的には、軽液の硫酸濃度より高濃度の硫酸を添加することで硫酸濃度を上昇(すなわち、水濃度を低下)させ、2液相間の界面を通じて、水濃度が高い重液から水濃度が低い軽液へと水を移動させます。その結果、重液中のHI濃度が上昇することで、I2の溶解度も増加するため、固体I2の析出を防止し、配管閉塞リスクを低減することができます(硫酸添加脱水法、図2)。

本手法をISプロセス連続水素製造試験設備に組み込み、水濃度が増加したブンゼン反応溶液に対して連続的に硫酸を供給した結果、硫酸供給量に応じてHI濃度が上昇し、I2析出のリスクが低くなる目標値まで達することを確認(図3)するとともに、硫酸添加により増加した軽液を2液相分離後の溶液から運転中に抜き出すことが可能であることを確認し、本手法の有効性をプラントスケールで実証しました。今後は、長時間の運転をより安定に行うことが可能な自動運転システムの開発を進めていく予定です。

(上地 優)