図1 模擬燃料コンパクト内の被覆燃料粒子のX線CT画像
図2 燃料コンパクトの非均質な熱伝導計算モデル及び温度上昇分布
高温ガス炉は、二酸化ウラン等の燃料核を熱分解炭素と炭化ケイ素で多重に被覆した被覆燃料粒子(CFP)を用いています。CFPの被覆は、燃焼に伴い発生する核分裂生成物(FP)をCFP内に保持する機能を有しますが、燃焼が進むにつれて、被覆中の炭素が燃料核からの遊離酸素と反応し、高温側で気化、その後、低温側で析出・蓄積していき、このとき高温側にできた隙間に燃料核が押し出される現象「燃料核移動」により破損する恐れがあります。そこで、設計では、運転期間中の燃料核移動速度(KMR)を評価し、燃焼末期に燃料核が被覆に接触しないことを確認しています。
従来、KMRは、評価上の重要パラメータである温度勾配が最も大きくなる燃料コンパクト外表面を評価点としていましたが、過大に評価され、炉心性能が制限されることが課題でした。そこで私たちは、評価結果の保守性は確保しつつも燃料コンパクト内の非均質なCFP分布を考慮することでKMRを合理的に評価可能な手法を考案しました。
具体的には、KMRの評価点を、模擬燃料コンパクトのX線CT画像(図1左)を基に、CFPが存在しないことが確認された燃料コンパクト外表面からの位置とする(図1右)手法を考案しました。HTTR(高温工学試験研究炉)燃料の場合、評価点は燃料コンパクト外表面から0.20 mm内側の位置となり、従来手法に比べ考案手法の採用によりKMRを約8%低減できることが分かりました。
併せて、考案手法が十分な保守性を持つことを確認するため、燃料コンパクトの内部構造を忠実に再現した非均質な熱伝導計算モデル(図2左)から得られる温度分布(図2右)により計算したKMRの参照評価値と考案手法から得られるKMRの評価値との比較を行いました。まずモンテカルロ法中性子輸送計算コードMVPを用いて、燃料コンパクトをCFP平均充てん率ごとに径方向に8分割した領域に分けて核分裂反応率(発熱量)を計算しました。
次にこの発熱量分布に基づいて、有限要素法解析コードANSYSによる熱伝導計算により、非均質な熱伝導計算モデルにおける温度分布を評価しました。この温度分布に基づいて評価したKMRが考案手法より小さくなることから、考案手法がKMRを保守側に評価可能であることを確認しました。
以上より、燃料コンパクト外表面からCFPが存在する領域までの内側に評価点を移動させることで、保守性を確保しつつ合理的にKMRを評価できる手法を新たに構築することができました。その結果、より長期の燃焼が可能になる等の炉心性能の向上が期待できます。
(沖田 将一朗)