5-6 アクチノイドのレーザーアシスト分離法の原理実証

−f 電子を光で操作し、抽出剤で分離・回収する−

図1 レーザーアシスト分離法の原理と実験結果の一例

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図1 レーザーアシスト分離法の原理と実験結果の一例

(a)は3価のランタノイド、アクチノイドイオンの可視光吸収スペクトルです。元素ごとに異なるため分離原理として使えます。はアメリシウム(Am)の選択励起に用いたレーザーの波長を示しています。カラースケールは、モル吸光係数(M-1cm-1)です。(b)はレーザーアシスト分離法のイメージです。混合溶液中でAmのみが内側の電子により光反応している様子を描いています。イオン半径()はどの元素でもほぼ同じため、一般的な抽出剤(有機配位子)を用いたサイズ認識に基づく元素選択は難しくなっています。(c)は共鳴多光子励起のスキームです。1段目が選択性、2段目が反応性を担います。(d)はレーザー照射後の試料を溶媒抽出したときの紫外可視吸収スペクトルの変化です。光反応したAmのみが水相で回収されています。

 


使用済み燃料に含まれるランタノイド及びアクチノイド(f 電子系元素)のうちアメリシウム(Am)など毒性の強い元素を分別できれば、放射性廃棄物の減容や管理期間短縮が見込まれます。また、ネオジム(Nd)など有用元素は国内流通量に比肩する含有量のものがあり、分離回収に成功すれば再資源化につながります。しかし、f 電子系元素は同程度のイオン半径を持つことが多いために化学分離では効率が悪く、高効率な分離原理の開発が望まれています。これらの元素は内殻軌道の電子配置に主たる違いがあるため、可視吸収スペクトル上に各元素特有の狭い吸収バンドが現れます(図1(a))。これらの吸収波長に調整したレーザー光で元素選択的に化学状態を変化させること(ロックオン)ができれば(図1(b))、「ロックオン」したものだけを抽出分離できるはずです。しかし単純な光吸収では付与されるエネルギーが足りず、波長選択により元素を選別(選択励起)できたとしても、エネルギー緩和のために「ロックオン」の状態を保持することができませんでした。

この問題を克服するために、元素選別を担う光吸収過程の直後に酸化還元反応を起こす2段階の光反応を試みることにしました(共鳴多光子励起、図1(c))。実験では、3価のアメリシウムAm(Ⅲ)とプラセオジムPr(Ⅲ)を混合した硝酸水溶液に対して、Am(Ⅲ)の吸収波長(503 nm)に調整した強力なレーザーパルスを照射したところ、Am(Ⅲ)は5価のAm(Ⅴ)に変化しましたが、Pr(Ⅲ)は全く変化しませんでした。さらに、溶媒抽出により未反応のAm(Ⅲ)とPr(Ⅲ)を有機相に移行させると、変化していたAm(Ⅴ)のみが水相に残り分離操作を完遂できることを確認しました(図1(d))。すなわち、共鳴多光子励起によりAmのみを「ロックオン」できること及びそれを他のf 電子系元素から分離できることを確認しました。

今回、アクチノイドの共鳴多光子励起に初めて成功するとともに、それを使った元素分離を実証しました。本原理の特徴は、高効率分離が特に望まれているAmとキュリウム(Cm)のように周期表上で隣り合った元素間でも高い選択性が期待できる点です。それらの分離効率を飛躍的に高めることができれば、群分離・再処理施設の簡素化やレアアースの超高純度精錬技術の創出を通して、放射性廃棄物処分の負担軽減や資源循環型社会の構築に貢献できると考えています。

本研究は、大阪公立大学及びレーザー技術総合研究所との共同研究として実施されました。また、日本学術振興会科学研究費若手研究(JP20K19999)「励起光波長選択による4f, 5f元素分離技術の開発」の助成を受けました。

(横山 啓一)