図1 液体金属原子が固体金属中に入ったときのエネルギーと元素選択性(脆化/非脆化)との関係
図2 「原子論的弱い相互作用」に基づく脆化基準の概念図
原子炉構造材料を含む金属材料は、液体金属に触れると割れやすくなることがあります。例えば原子力分野では、加速器駆動未臨界炉と呼ばれる原子炉内に冷却材の鉛(Pb)とビスマス(Bi)が混ざった液体と鉄鋼材料が触れる部分があります。温度やその他の条件に依存しますが鉄鋼材料が割れやすい場合があり、その原因の解明が割れ対策に必要です。
このような現象を液体金属脆化と呼びますが、ほとんど脆化が生じない場合もあります。例えば鉄鋼材料は液体ナトリウム(Na)に触れてもPbやBiと比較するとほとんど脆化しません。このような脆化の程度の違いが液体-固体金属の組合せによって生じることを「液体金属脆化の元素選択性(特異性)」と呼びますが、なぜそれが生じるのかは分かっていませんでした。その解明は、脆化メカニズムの解明にもつながります。
そこで、第一原理計算という物質の電子状態を正確に計算する計算科学の手法を用い、元素選択性の原因を調べるため、約50通りの液体-固体金属の組合せで実験と計算の結果を比較しました(図1)。すると、液体金属原子が固体金属の格子中(格子溶解)や粒界中(粒界吸着)にあるときの相互作用を表すエネルギーが大きな正の値(強い反発)でも大きな負の値(強い引力)でもないときに、脆化が生じやすいことを見い出しました。つまり、上記の原子論的相互作用が弱いときに脆化が発生しやすいことが判明しました。
この「原子論的弱い相互作用」の脆化発生エネルギー基準から推定される脆化の機構を図2に示します。割れを起こす力は、液体金属原子の表面吸着による固体金属表面のエネルギー低下と考えられます。しかしこの表面吸着誘起の割れが生じるためには、その前駆現象として液体金属原子が固体金属の亀裂先端部分に侵入でき、かつ、それほど強く固着しないことが必要条件となっていると考えられます。そう考えると図1と辻褄の合う理解が得られますが、詳しい解明には更なる計算科学研究が必要です。
本研究の一部は、文部科学省ポスト「京」萌芽的課題「基礎科学の挑戦−複合・マルチスケール問題を通した極限の探求」の成果です。
(山口 正剛)