6 システム計算科学研究

原子力研究開発を支える計算科学技術

図1 システム計算科学センターにおける計算科学研究

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図1 システム計算科学センターにおける計算科学研究

原子力研究開発のDXに向けて、@高精度なシミュレーションを可能とする高性能計算技術、シミュレーション技術、Aデジタルツインを可能とするデータ同化技術、及びB膨大なデータに対する可視化技術、機械学習技術の研究開発に取り組んでいます。

 


原子力機構が進める廃止措置、福島の環境回復、軽水炉の安全性向上、新型炉設計、地層処分といった原子力研究開発において、デジタル技術を活用して研究開発を効率化するデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める上で、スーパーコンピュータを活用した計算科学やデータ科学の手法が必要となります。例えば、機械学習に基づく新しい原子・分子シミュレーション技術によって核燃料や構造材の高精度な物性評価が可能になれば、新型炉設計の研究開発が加速すると考えられます。また、観測データと連携した実時間風況解析が実現できれば、より確実性の高い汚染物質拡散解析が可能になると考えられます。

このような技術ニーズに応えるため、システム計算科学センターでは、@スーパーコンピュータを駆使した高精度なシミュレーションを可能とする高性能計算技術、シミュレーション技術、Aシミュレーションと観測データを融合したデジタルツインを可能とするデータ同化技術、及びBシミュレーションや観測から得られる膨大なデータに対する可視化技術、機械学習技術の研究開発に取り組んでいます(図1)。また、これらの技術は原子力分野以外でも活用できるため、産学官との連携に基づくイノベーションの創出に向けた取組みも推進しています。

2022年度は、機械学習を応用した高精度な原子・分子シミュレーション技術の開発及びそれを応用したシミュレーション研究として以下の3つのテーマに取り組みました。トピックス6-1では、多数の第一原理計算結果を学習して原子間力を高精度に予測するニューラルネットワークによって高精度かつ大規模な分子動力学計算を可能とし、核燃料物質の高温物性を再現しました。トピックス6-2では、新型炉設計で問題となっている、液体金属の冷却材と触れる構造材の脆化現象を第一原理計算によって解析しました。トピックス6-3では、水に溶けたラジウムの水和構造をSPring-8で観測し、観測結果を第一原理計算で再現しました。一方、計算基盤技術の開発として以下の2つのテーマに取り組みました。トピックス6-4では、これまでに開発してきた遠隔可視化ソフトウェアを拡張し、ヘッドマウントディスプレイを用いたVR可視化を可能としました。トピックス6-5では、熱流動解析に現れる大規模な連立一次方程式の行列解法を機械学習用の16bit演算で加速するためのデータ変換手法を開発しました。

システム計算科学センターでは、原子力研究開発のDXに必要となる計算科学技術の研究開発を今後も着実に進展させ、その成果を積極的に展開していきます。