図1 遠隔VR可視化ソフトウェアVR-PBVRの構成
図2 実験機材
図3 VR-PBVRの利用事例
スーパーコンピュータ(スパコン)上の大規模で複雑な原子力シミュレーション結果を直感的に理解する上で仮想現実(VR)を用いた可視化(VR可視化)が有効です。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)(図2)はセンサーで頭部の動きを追跡(ヘッドトラッキング)することで、没入感のある立体視を実現します。ヘッドトラッキングには画像の更新が伴うため、60フレーム毎秒(FPS)以上での画像生成が必要です。しかしながら、従来手法は3次元データを全てポリゴンと呼ばれる可視化要素に変換するため、可視化用データが元データに匹敵するほど大きくなり、HMDに必要な60FPSを超えることが困難でした。
粒子ベースボリュームレンダリング(PBVR)という可視化手法は3次元データを可視化用の粒子データに変換し、画面に投影して可視化します(図1)。これに必要な粒子数は画面解像度程度となり、10242ピクセルで数百万粒子(約100メガバイト)となるため、計算データに対して可視化用データが大幅に圧縮されて高速なデータ転送や可視化処理が可能です。私たちはこれまでに、この特長を活かしてクライアント・サーバ型(CS)の遠隔可視化ソフトウェアCS-PBVRを開発し、上記の課題を解決しました。
本研究ではCS-PBVRをHMD向けに拡張したVR-PBVRを開発し(図1)、従来手法では困難だった大規模データの遠隔VR可視化を実現しました。ディスプレイ上の可視化と異なり、HMDでは視点がヘッドトラッキングで変化し続けます。このため、視点変化を計算し常時更新するようにHMD向けの処理系を構築し、さらにPC上で高速に両眼画像を生成する機能を実装しました。また、従来のマウス操作に替えて、コントローラによるジェスチャ制御機能を開発することで、VR空間内において両手で可視化データを把持し動かす機能を実装しました。これにより、VR空間でPBVRを利用できるようになりました。
VR-PBVRをスパコン上の約3300万要素の熱流動解析データに適用しました(図3)。従来の可視化ソフトウェアでは1FPS以下の描画速度でしたが、VR-PBVRでは90FPS以上を達成し、HMDによるスムーズなVR可視化が可能となりました。VR-PBVRを活用することで、今後、大規模な原子力シミュレーションから生成される3次元時系列データの理解が進むと期待されます。
本研究は、日本学術振興会科学研究費基盤研究(C)(JP20K11844)「大規模分散GPGPUシミュレーションの対話的In-Situ可視化」の助成を受けたものです。
(河村 拓馬)