環境回復に係る研究開発

8-16 事故後の住民の被ばく管理手法をレビュー

−住民が安心できる帰還困難区域の解除に向けて−

図1 被ばく線量評価事業のレビュー結果

図1 被ばく線量評価事業のレビュー結果

政府、自治体が実施した個人線量評価事業を内容ごとに分類し、実施自治体ごとに色を分けて示してあります。

 

図2 自治体に導入された被ばく評価システム

図2 自治体に導入された被ばく評価システム

情報発信方法に関わるレビューに基づき構築した被ばく評価システムを、サイネージとして実際に自治体に導入しました。本システムでは、タッチパネル式に行動経路と滞在時間を選択することで、容易に被ばく線量を計算することが可能です。

 


国は、2020年代をかけて、帰還意向のある住民が帰還できるよう、避難指示解除の取組を進めていくこととしています。原子力規制委員会は、避難指示の解除に際しては住民の被ばく線量を把握・管理するとともに、住民の被ばく線量や健康不安を低減することが重要であると示しています。東京電力福島第一原子力発電所事故後、様々な行政機関により行われた被ばく線量評価に関わる知見や経験は、今後の避難指示の解除に際して、放射線防護やリスクコミュニケーションに有用な情報となります。しかし、評価の目的や手法は機関により多種多様で、情報の精査・整理がなされていませんでした。そこで本研究では、これまでに実施された様々な評価をレビューし、その方法や特徴、留意点などについて体系的に整理しました。

従来から行われてきた主な被ばく線量の評価方法の一つとして、個人線量計による実測は個々の住民が実際に受けた被ばく線量を評価することができるため、主に政府や自治体により住民への健康不安対策として行われました(図1)。また、被ばく線量に影響する要因(行動経路・範囲とこれに対応する空間線量率、屋内外の滞在時間、建屋による空間線量率の低減率など)は、個々の住民によって異なります。これらの要因のばらつきは、シミュレーションにより被ばく線量の実測値に反映することで、集団の被ばく線量分布の評価が可能になります。一方で、これらの手法は被ばく線量を実測する必要があるため、被ばく線量の予測には、適用することが困難です。

上述の各要因をパラメータとして、個人や集団の被ばく線量をシミュレーションすることも可能です。この場合、評価対象となる個人や集団のパラメータに実測値を用いることで遡及的評価が可能であると同時に、パラメータを仮定して設定することで予測的な評価も可能となります。

個人線量計による測定では、測定器の特性や装着状態、外部刺激によるノイズなどが測定値に影響します。また、シミュレーションでは、設定したパラメータに不確実性が含まれます。そのため、被ばく線量の評価方法を選定する際には、上述の特徴と併せ、このような不確実性や評価結果の精度についても考慮することが重要です。

情報発信方法についてもレビューし、現在は得られた成果を基に、住民の方々のリスクコミュニケーションツールの一環として、被ばく線量評価システムが自治体に導入されています(図2)。また、被ばく線量評価により得られた成果は、各自治体の除染検証委員会に提供され、特定復興再生拠点の避難指示解除に活かされました。本成果が今後の帰還困難区域における避難指示解除に資することが期待されます。

本研究は、内閣府からの受託事業「令和3年度福島県における個人線量データの活用等に係る検討事業」において得られた成果です。

(吉村 和也)