環境回復に係る研究開発

8-15 プルトニウム同位体の迅速分析を目指して

−前処理操作を必要としない分析技術へ−

図1 アクチノイドとCO2ガスの反応性

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図1 アクチノイドとCO2ガスの反応性

(a)PuはCO2流量の増加に伴い、2酸化物まで酸化反応が進みます。一方、(b)Amと(c)Cmは1酸化物までは反応が進みますが、2酸化物の生成はほとんど見られませんでした。よって、もともと同じ質量数の元素でも酸素が付く数によって質量分離が可能となります。

 

図2 プルトニウム同位体の一斉分析の概念図

拡大図(311kB)

図2 プルトニウム同位体の一斉分析の概念図

CRC前段の四重極では238Uが除去され、CRCでの238UO2水素化物の発生を防ぎます。次に、CRCにてPu、Am、CmをCO2と反応させると、Puは2酸化物、AmとCmは1酸化物へと変換されます。CRC後段の四重極では、2酸化物のPu(PuO2+)のみを通過させ、一度の測定で主要なPu同位体(239Pu、240Pu、241Pu、242Pu、244Pu)を一斉に分析可能となります。

 


プルトニウム(Pu)の同位体は、高エネルギーのアルファ線を放出するものが多く、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉を進める際の被ばく管理や放射性廃棄物管理において、重要な核種です。それらの管理には、Pu同位体(239Pu、240Pu、241Pu、242Pu、244Puなど)の測定が必要となります。しかし、従来の放射線を計測する分析法(アルファ線スペクトロメトリ)は、エネルギーが近いアルファ線を放出する核種を事前にPuと分離する必要があり、分析に費やす労力・時間が多い、分析者の力量が定量値に影響を及ぼすなどといった課題を抱えていました。

誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)は、分離操作をせずに、溶液中の核種を質量数ごとに分別して検出可能であり、Pu同位体の一斉検出による分析時間の短縮化を期待できます。しかし、従来のICP-MS法では、同じ質量数を持つ別の核種が同時に検出され、目的とする核種の定量が妨害されるという課題を抱えています。239Puと240Puに対しては、試料中に過剰に存在するウラン238(238U)からわずかに生成する238U水素化物(238UH+及び238UH2+)、そして241Puと244Puにはアメリシウム241(241Am)及びキュリウム244(244Cm)がそれぞれ干渉します。この課題を踏まえ、本研究では、装置内に二つの四重極(電場を使って特定の質量数以外の核種を除去する機器)と、その間でガスとの反応を起こすことができるコリジョン・リアクションセル(CRC)を備えたICP-タンデム質量分析(ICP-MS/MS)を利用し、一度の測定で複数のPu同位体を検出するための分別技術を開発しました。

まず、CRCに複数の酸化性ガス(O2、CO2及びNO)を個別に導入し、Pu、Am及びCmの酸化挙動を調査しました。その結果、CO2を用いることで、Puは2酸化物(PuO2+)、Am及びCmは1酸化物(AmO+及びCmO+)に変換されることを見いだしました(図1)。これにより、241Pu・244Puと、241Am・244Cmとの質量分離が可能になりました。一方、238UがCRCに入ると酸化反応によって発生した238UO2+が水素化物(238UO2H+238UO2H2+)を形成して、239PuO2+240PuO2+へと干渉することが分かりました。そこで、CRC前段の四重極で238U+を除去することで、CRCでの238UO2水素化物の生成を抑制し、結果的に239Pu、240Pu、241Pu、244Puへの干渉を大幅に低減しました。これらの分離技術を組み合わせることで、一度の測定で主要なPu同位体(239Pu、240Pu、241Pu、242Pu、244Pu)を一斉に分析することが可能となります(図2)。なお、238Puは238Uとともに除去されるため、本法の測定対象外です。

本法は、前処理操作などを行わずに干渉物質を分離可能であり、環境試料や放射性廃棄物に含まれるPuの迅速分析法として活用が期待されます。

(松枝 誠)