廃止措置に向けた研究開発

8-2 燃料デブリから放出される放射線を明らかにする

−多様な燃料デブリの制動放射X線の特性と線量率影響の解明−

図1 計算で求めた1F2号機炉心当たりの核分裂生成物(FP)放出の有無に依存したβ線強度

図1 計算で求めた1F2号機炉心当たりの核分裂生成物(FP)放出の有無に依存したβ線強度

0.5 MeV以上では揮発性FP放出有無の影響が小さいことが分かりました。

 

図2 燃料デブリから放出されるγ線と全光子のスペクトル

図2 燃料デブリから放出されるγ線と全光子のスペクトル

計算で求めた、原発事故から20年後の燃料デブリ、FPの放出がある場合の光子スペクトルです。全光子は制動放射X線によって連続スペクトルを形成しました。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故で発生した燃料デブリには、UO2燃料、Zr被覆管、B4C制御棒、SUS材などが、溶融混合したものがあると考えられています。近々このような燃料デブリの試験的取出しが計画されています。今後取り出される燃料デブリを安全かつ合理的に取り扱うために、多様な燃料デブリから放出される放射線の特性を明らかにすることが求められています。その一環として、これまで考慮されてこなかった燃料デブリの制動放射X線の特性解明と線量率への影響評価を行いました。

一般的にはγ線の線量率が注目されていますが、燃料デブリにはウランなど原子番号、密度が高い物質が含まれていますので、核分裂生成物(FP)が放出するβ線に起因した制動放射X線による線量率も考慮する必要があります。また、セシウム(Cs)など揮発性FPは、燃料溶融時に放出されたと考えられており、通常の使用済燃料とは異なり、制動放射X線の強度が相対的に大きくなると考えられます。

そこで私たちは、モンテカルロ計算コードPHITSを用いて、多様な燃料デブリから放出されるγ線と制動放射X線の生成過程とスペクトルを明らかにし、全光子(γ線と制動放射X線)に対する制動放射X線の線量率への最大寄与を評価しました。

図1にシーグバーンの式(β線の評価式)より導出した1F2号機炉心当たりのβ線の強度(β線数)について、事故後20年経過後でFPの放出有無をパラメータとして比較したものを示します。燃料デブリのβ線は、0.5 MeV以下では、揮発性FP放出有無の影響が大きく、放出がある場合にβ線強度が低くなることが分かりました。一方、図2では事故後20年経過後で放出ありのケースで全光子と制動放射X線のみの単位面積当たりの光子数を比較したものを示します。0.7 MeV以上の高エネルギー側で、制動放射X線がより支配的であることが分かりました。この制動放射X線の影響を線量率に換算すると、その寄与は図2のケースで17%となり、従来評価してきたγ線のみによる線量率の1.2倍になることを明らかにしました。

これまで評価されてこなかった燃料デブリから発生する制動放射X線の生成メカニズムと特性を解明し、今後取り出される燃料デブリの安全な取扱いに必要な知見を得ることができました。

(松村 太伊知)