図1 チェレンコフ放射角度のエネルギー依存性
図2 液体ライトガイドに飛行時間分析(Time-of-Flight:TOF)法を適用した90Sr/90Y、137Cs点線源測定及び両者の弁別
光ファイバに飛行時間(Time-of-Flight:TOF)法を適用した放射線位置検出器は、光ファイバ両端への光の到達時間差から放射線の入射位置を決定する手法であり、放射性物質の分布を線的に測定する手段として古くから研究されてきました。東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故後は湖沼底部の放射性セシウム(137Cs)の分布調査等に活用されています。一方で、本手法は光ファイバへの放射線の入射位置の把握はできても、核種を判別することはできませんでした。1F原子炉建屋内外には137Csの他にも純β核種のストロンチウム90/イットリウム90(90Sr/90Y)が存在し、その詳細な分布はほとんど把握されていません。近年、目の水晶体の等価線量限度が引き下げられたこともあり、90Sr/90Yの分布把握は今後重要になると考えられます。
私たちは名古屋大学との共同研究により、コア材が液体の光ファイバである液体ライトガイド(Liquid Light Guide:LLG)を利用することで、137Csと90Sr/90Yの位置を同時に測定する手法を考案しました。ここでは、LLGコア内を通過する荷電粒子により発生するチェレンコフ光のTOF分析を行います。チェレンコフ放射の指向性は通過する荷電粒子のエネルギーに依存するため、90Sr/90Yと137Csで違いが生じます(図1(a)、(b))。図1(c)に示すTOF法をLLGに適用して90Sr/90Yと137Cs点線源位置を測定した結果を図2(a)、(b)に示します。両者ともに線源位置に応じたピークが確認できる一方で、チェレンコフ光がLLGの両端に到達した事象である線源位置ピークと片側のみに到達した事象である端面反射ピークとの計数比に明確な違いが生じました。これは、図1(a)、(b)に示す通り、137Csは90Sr/90Yよりもチェレンコフ放射角度が小さいため、137Csでは90Sr/90Yと比較してチェレンコフ光がLLG両端へ届きにくいためです。この違いを利用して両者を弁別することが可能です。90Sr/90Yと137Csの位置分布同時測定結果を図2(c)に示します。ここでは、図2(a)、(b)で測定したヒストグラムを基に、図2(c)のヒストグラムを最もよく再現する核種の位置ごとの組合せを推定しています。チェレンコフ放射の指向性により形成される端面反射ピークの計数情報をパラメータとして加えることにより、90Sr/90Yと137Csの位置を同時に測定することに成功しました。本手法は1F原子炉建屋内のような高γ線バックグラウンド下における90Sr/90Yの選択的測定への応用が期待されます。
本研究は、原子力機構「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」(JPJA19B19206529)の「一次元光ファイバ放射線センサを用いた原子炉建屋内放射線源分布計測」の成果の一部です。
(寺阪 祐太)