廃止措置に向けた研究開発

8-4 作業空間内構造物種別の自動識別

−深層学習による点群データからの構造物識別手法の開発−

図1 構造物識別手法の概要

図1 構造物識別手法の概要

上段は構造物識別器の学習フェーズを示しており、点群と3次元CADデータから教師データセットを作成して識別器の学習を行っています。下段では学習済みの識別器を用いて、新しい点群データに対して構造物の形状領域と種別の推論を行っています。

 

図2 性能評価の結果の一例

図2 性能評価の結果の一例

(a)の入力点群データに対して、構造物識別器によって(b)に示すように種別が推定されます。(c)は人手によって作成された3次元CADデータ(構造物ラベルの正解)を示しており、(b)の推論結果がおおむね再現できていることが分かります。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)の廃炉作業では、作業者の被ばく低減措置を適切に講じるために、作業空間の放射線量分布を把握した上で計画立案を行うことが重要です。正確な放射線量分布の計算には、作業空間で計測された部分的な線量率の値に加えて、放射線の減衰や吸収、散乱といった挙動を計算するために構造物の位置や形状、材質の情報が不可欠です。従来このような情報の整備は、現場で3次元レーザースキャナーを用いて計測された点群データ(3次元の位置情報を持つ点の集合)を基に専用のソフトウェアを用いて人手による3次元モデル作成が行われています。しかし、この作業には専門的知識が必要なことに加えて、計測データの欠損等により判別が難しい見た目のデータが多く存在することから時間的・人的なコストが生じています。

そこで私たちは、深層学習を用いて点群データから自動的に構造物情報を推定する手法を開発しています(図1)。点の配置パターンに基づいて構造物識別器を学習させることによって、新しく入力されたデータに対して形状領域と種別を推定します。さらに、推定した構造物の種別へあらかじめ紐付けた材質情報を割り付けることで3次元モデル作成のコストを大幅に削減することが期待できます。

構造物識別器を学習させるためには、膨大な教師データ(機械学習に必要な入力と正解がセットになったデータのことであり、本稿の場合は属性情報が付与された点群データ)が必要になりますが、その整備は容易ではありません。私たちは、既存の原子力施設で計測された点群データに対して、現場で利用される構造物の管理区分に基づいて人手で整備した3次元CAD(Computer Aided Design)データの情報を割り付けることで効率的に教師データを作成することを実現しました。実際の原子力施設のデータに対して提案手法を適用して識別器の学習を行い、交差検証法による性能評価を行った結果、主要な九つの構造物種別に対して高い推定精度を達成しました(図2)。このように、これまで人手によって構造物の形状領域と種別を割り付ける必要があった作業を自動化することで、廃炉作業の効率化に寄与することができます。

現在、構造物の外観情報等を用いて更なる識別精度の向上を進めています。今後は、学習していない構造物種別の判別を行うアルゴリズムの開発を行うとともに、3次元モデリング手法を統合したシステム化によって1F現場適用を目指します。

(今渕 貴志)