廃止措置に向けた研究開発

8-5 1F原子炉内のセシウム分布予測に向けて

−事故時におけるセシウムの原子炉内ふるまい解析コードを改良−

図1 シビアアクシデント解析コードの改良により得られるセシウムの吸着量、化合物、水溶性に関する情報

図1 シビアアクシデント解析コードの改良により得られるセシウムの吸着量、化合物、水溶性に関する情報

事故時の原子炉の構造材料であるステンレス鋼へのセシウムの化学的な吸着の有無や吸着により生成した化合物、その水溶性を明らかにし、改良したモデルをシビアアクシデント解析コードに導入することで、原子炉構造材料におけるセシウムの吸着状態や、水溶性について検討できるようになりました。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)の燃料デブリ取出しに向けて、原子炉や建屋内に残っている放射性セシウム(Cs)は、廃炉作業や建屋等の冠水により水へ溶出することが想定されます。このため、放射線源であるセシウムの分布やその化合物の性状を予測できれば、それが水で溶出されるかどうか等が分かり、燃料デブリの取出し作業時の被ばく評価や廃棄物の処分方法の検討に役立ちます。例えば、セシウムが構造材料に吸着することで、生成する化合物によっては水に溶出しない化学的に安定な放射線源として残存する可能性があります。しかし、今まで、セシウムがどのように吸着し、どのような化合物を生成するか不明であり、さらにSAMPSON等の従来のシビアアクシデント解析コードにおいてそのふるまいを解析できなかったため、原子炉内に分布するセシウムの吸着状態や水溶性を検討することは困難でした。

そこで、私たちは、873〜1273 Kにて主要な構造材料であるステンレス鋼とセシウム蒸気の反応実験を行いました。ステンレス鋼への吸着により生成したセシウム化合物は、主にステンレス鋼に含まれる鉄(Fe)やケイ素(Si)との反応生成物であるCsFeSiO4、CsFeO2であること、1Fで想定される温度である1000 K近傍にて、そのセシウム化合物が異なることを明らかにしました。さらに、CsFeSiO4、CsFeO2のそれぞれの高純度試料を作製して、水への溶出実験を行うことにより、約1000 K以上で生成されるCsFeSiO4は水溶性が低く、約1000 K以下で生成されるCsFeO2は水溶性が高いことを明らかにしました(図1)。

これらの実験結果をもとに、私たちはセシウム化学吸着モデルを改良し、原子炉や建屋内各所のセシウムの事故時のふるまいを解析するための従来の解析コードSAMPSONにこの改良したモデルを導入しました。セシウムが圧力容器内を移行していく中で経験する温度低下(約1300 Kから400 K)を模擬した管状炉によりセシウムの化学吸着実験を行い、改良したSAMPSONによりこの実験を解析しました。その結果、移行時の温度低下に応じた吸着量の変化や生成した化合物をよく再現し、改良したSAMPSONが妥当であることを確認しました(図1)。

この改良したSAMPSONで解析を行うことにより、今まで不明であった1Fの原子炉内におけるステンレス鋼へのセシウムの吸着状態や、吸着したセシウム化合物の水溶性について検討できるようになりました。

本研究成果のうち、従来の解析コードSAMPSONへの改良したモデルの導入は、エネルギー総合工学研究所との共同研究により実施しました。

(三輪 周平)